「サンス・エ・サヴール」、長谷川シェフの才気を味わう

フレンチレストラン「サンス・エ・サヴール」。南仏の三ツ星レストラン「ル・ジャルダン・デ・サンス」の双子のオーナーシェフ、ジャック&ローラン・プルセル氏とひらまつの提携で、オープン時に話題を集めたレストランだ。ただジャック&ローラン・プルセル氏は、ほとんどメニュー構成には口を出していない。むしろボキューズ・ドール国際料理コンクールの日本代表に選出された長谷川幸太郎シェフの料理が食べられるレストランと言った方が良いかもしれない。長谷川シェフは、「ル・ジャルダン・デ・サンス」で経験を積んで、サンス・エ・サブールの料理長に抜擢された。
ボキューズ・ドール国際料理コンクールは、その名の通り、3つ星レストランの重鎮シェフ・ポール・ボキューズにちなみ2年に1度開催される、世界的に権威のある国別対抗のコンクール。フランスとノルウエーが優勝することが多く、日本代表の結果は芳しくない(前回は24か国中12位)。従来日本代表の選出方法は、誰が料理を作ったかわからないようにして、純粋に「料理」のみで選出されていたそうだ。
今回からひらまつの平松氏が日本の責任者になって、この選出方法が一変。大会で勝つための基準ということで、誰の作った料理がわかるようにする、キッチンでフランス語の質問をして受け答えも評価する等になった。そして、日本代表に選ばれたのがヒラマツグループのサンス・エ・サヴールのシェフとなれば、誰でもうがった見方をするだろう。サンス・エ・サヴールを訪問する時も、色眼鏡で余り期待していなかったが、料理を口にしてその評価は一変した。
「和牛すね肉とフォワグラのテリーヌ」。牛すね肉とフォワグラが綺麗に1層ずつ重ねられたテリーヌ。「牛すね肉」と聞いて、エッと思ったが、口の中で微妙なバランスが広がる。
「ラングスティーヌと根セロリのラヴィオリ仕立て」。大きめなラングスティーヌがカップ皿の真ん中に鎮座し、それを柔らかな泡状のブイヨンが包み込む。隠し味のレモンの風味が切れのよさを印象付ける。非常に軽い味わいなんだが、きちんとフレンチの技術とフランスの香りを感じる。
「天然真鯛のグリエ 蛸の赤ワイン煮込み」。真鯛は皮がパリッと焦げ目が付き、一方、白身は水分・旨みを残して非常にジューシー。厚みのあるプランチャーを使って、高温でグリエしているためここまでの出来になるそうだ。そして何よりも蛸の赤ワイン煮込みのソースが、非常に繊細に煮込んでおり真鯛にぴったりだった。白身魚に赤ワインソースを合わせるという珍しい、しかし、古典的な技法に、蛸を持ってきたセンスにうなった。
「A5和牛フィレ肉のポワレ さつま芋のガレット添え」。文句なしに上質な牛フィレ肉に繊細な火入れでジューシーに仕上げている。ヴィネガーソースには隠し味にケッパー。これがまた酸味と軽やかさをかもし出す。これだけでは美味しいプレートで終わるが、添えられたのがフォワグラのクルスティヤン。かりかりに揚げられた春巻きの中にフォワグラが入っており非常に楽しい。
全体的に軽い仕立てだが、きっちりとその軸足はフレンチ。「軽いフレンチ」という名の元にただの洋食になっているレストランがある中、この微妙なバランス感覚は天性のものだろう。そして押し付けがましくなく、一つ一つの味や素材に頼るのではなく、甘味と酸味のバランス調和を旨みに昇華させている。また新しい「才能」に出会えて、非常に嬉しかったレストラン。来年1月、フランス・リヨンで開催されるボキューズ・ドール国際料理コンクールがどんな結果であれ、その才能をさらに伸ばして欲しいものだ。
なお、店内のデザインは赤や黄など原色を基調にするなどビビットな印象。シェフの顔をあしらった入り口のデザインは、ピエールガ二エールを彷彿とさせる(ガニエールより先に出来たのはこちらだが)。サービスはひらまつ系らしくそつなく文句なし。ワインは見開き1枚に、まずまずのワインが並ぶが、ひらまつ本店のような重厚感がありうきうきするリストではない。
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