夏の訪れは「シンコ」で。(2) おけい寿司

東京駅・八重洲口から徒歩数分。会社務めの人々が慌ただしく行き交う路地裏に、何気ないたたずまいの寿司屋。ここが由緒ある江戸前の名店だと知らない通行人も多いだろう。魯山人のお気に入りで数々の文豪が通ったという、ここ「おけい寿司」では昭和30年代前半、10代で弟子入りした2代目のご主人が、最高の江戸前寿司を握ってくれる。
沖縄産の鮪の赤身は柔らかいほのかな酸味。この時期の鮪はどの寿司屋も苦労しているが、鳥取の鮪が焼けていて使えなかったらしい。
美しく、「これぞ江戸前!」という存在感のあるコハダは、ジュわっと酢が染み出てくる。懐かしいような、ほっとするような、そんな優しい味わいだ。イカ、常磐のカレイ、キスと続く。
おけい寿司のシャリは、黒酢・砂糖・塩を合わせほんのりと色づいている。軽やかに握られるその形は流線型ではないが、ネタを受けるに丁度いい小さな台座のような形。口に含むとパッと一瞬にしてはらける。
車エビ、初鰹、赤貝、トリガイ。そして鹿島のハマグリは非常に大ぶりだがツメとともに渾然一体となって最高の味わい。その後、アジ、中トロ、アナゴ、タマゴのおつまみで「お任せ」一通りとなる。
前回うかがった時はなかったシンコがあるというので喜々として追加注文。おけい寿司のシンコはいつもは2枚付けというが、まだ出はじめで小さいため4枚付けで供せられる。しばしその姿形を鑑賞して口に入れる。酢を感じたと思う間もなくシンコは口の中から消えていた。
最後はおけい寿司の定番、キュウリの巻物。ほのかな酸味を感じるキュウリの巻物を名残惜しく1個ずつゆっくり味わっていると、満腹感と幸福感が浮かび上がってくる。
ネタも飛び抜けたものがあるわけではないが、きっちり丁寧な仕事がされている。シャリとの相性含めて抜群の安定感を感じる。常連・一見隔てなく明るいシャキシャキの江戸っ子らしいご主人の接客が、また風情を盛り上げてくれる。最先端の江戸前ではないが、いつ来ても昔ながらのおいしい江戸前寿司を頂ける名店だ。
夜うかがった時は、だらだらと飲んでいる接待族もいて何となく落ち着かなかったので、かえって空いているお昼の方がおいしく頂けるかもしれない。
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