今年の夏はゴージャス香港フレンチ「ガディス」(3)

「ペニンシュラ・アーケード」中ほどの分かりにくい場所に、ひっそり白い扉がある。中に入ると、古い歴史のあるEVのみがあり、ゆっくりとギシギシ音をたてながら上昇する。そこは香港の歴史を奏でてきた「ザ・ペニンシュラ香港」の誇るフレンチレストラン「ガディス」。EV扉の開いた向こうには、クラシックで重厚かつ豪華な、イングランドテイストの素晴らしい景色が広がる。中央の低くなったフロアを取り囲むように高いフロアという立体的な造りが、視覚的に更なる豪華な印象を生む。
「ガディス」という店名は、初代総支配人「Leo Gaddi」氏の名前から付けられたという。映画「慕情」に登場したことでも知られている。
今、「ザ・ペニンシュラ香港」の客室では80周年を祝して、創業当初からの秘蔵歴史ビデオが流されている。そのビデオで目にした華やかな創業当初の、そのままの社交場の雰囲気残るこのレストランで、今私達が優雅な時間を過ごしている。そんな「時」を感じる幸せな空間。ロイヤルブルーに気品を感じる配色のインテリア、照明をかなり落としたシックな店内に、遠くからキラキラ浮かぶ銀製のシャンパンワゴンが運ばれて来る。ブーブクリコのロゼをチョイスした。
最初はアラカルトを頼もうとしたが、フロアーマネージャーがきっぱりと特別コース(1953HK$)を勧めてくる。そうだ、今年は「ガディス55周年」でもある。記念の特別ディナーコースというので、もちろんこれをお願いする事にした。グラスのクリュッグがサービスで付いているのも嬉しい。
「オシェトラキャビアを添えたサーモンフュメ」。軽くスモークされ香り高いサーモンだ。軽くレモンを絞りキャビアをサワークリームとともに頂く。真に古典的な1品だが上質な素材をそのまま頬張るような感じになる。
「フレンチオニオンスープ」濃厚かつクラシック。ボリュームもすごい。そう、「ひらまつ」で頂いたポールボキューズのスペシャリテのスープを思い出す。
「平目の白ワインソース」。ルイ・ラトゥールのムルソーをハーフでチョイスする。今回訪問した香港のフレンチレストランは、どこもフルボトルだけでなく、ハーフ、グラスとそれぞれ工夫したワインリストが嬉しい。日本のフレンチレストランでは、ワインがなかなか出ないという嘆きを良く聞くが、ハーフ・グラス・シャンパンワゴンなど、客がつい頼みたくなるような工夫が足りないのではないだろうか。
ピアノの生演奏も3巡目に入ってきた。素晴らしい演奏にサービスを通してチップを渡すと、「1曲プレゼントします」と妻の好きな曲を即興で弾いてくれた。地元香港の常連らしい夫婦、欧米の家族、パーティーらしい集団とフロアーもにぎわってきた。皆、きちんとドレスコード以上を守っている。
「カプリス」「ピエール」もそれぞれの楽しさがあったが、ここ「ガディス」のサービスは上品だ。綺麗で丁寧な英語を駆使し、日本人に合わせた話題を提供するなどさりげない気配りに感心した。歴史をつなぐ自信を内に秘めたホスピタリティにあふれていた。
コースのメインはオマールか、子牛の胸腺肉からのチョイス。例の如くワガママをいって、アラカルトの子羊に変えられるか尋ねると、即答で対応してくれる。子羊は綺麗なロゼ色に仕上がり、アスパラガスが添えられている。ラスカーズ2001のハーフボトルに合わせ、上質な子羊の肉質を楽しんだ。
基本に忠実かつクラシックだが、重たいだけではなく、おいしくいただけるよう量やつけ合わせが工夫されている。現代フレンチの到達点と一線を画しながらも、アヘン戦争、日本・イギリスの統治と、翻弄されてきた歴史の中で頂くフレンチは、また別の趣にあふれていた。今年の夏を飾る香港での、最後の晩餐にふさわしい味わいを堪能した。
なお、ミシュランガイドは、昨年の東京ミシュランに引き続き、香港マカオ版を本年12月に発売することを正式に発表した。香港マカオミシュランを契機に、香港の食はこれからますます活況を呈するだろう。ちなみに、ミシュランのアジア戦略として、今後は北京・上海・京都などが噂されている。(08/8/31追記)
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