比良山荘、「月鍋」で堪能するジビエ熊

雪がチラつく寒い日、京都市内から鯖街道を通り、滋賀県は琵琶湖まで一路北上する。だんだん景色が白く輝いてくる。車も慎重な運転で山道をくねくね。大原の寂光院や三千院に行く道を横目に、1時間もすると辺り一面の深い雪化粧、まるで別世界よ♪山間だというのに、わざわざ訪れたらしい子連れが雪だるまを作っているわ。福岡の人間にはやたらとテンションが上がる光景。
そんな美しい山々の雪景色の中、趣ある集落が見えて来た、やっと辿り着いたここは「比良山荘」。絵のように静かに佇む風情が素敵な料理旅館よ。お隣には地主神社も見える。もともとは登山者用の宿として出発したというわ。現在では3代目、そして今年で50周年を迎えるの。
夏は鮎、冬は猪や熊鍋など、食事だけを楽しみにわざわざ遠方より訪れる客も多い。この日も県外からの車が多く着けられていた。今回は「冬の一番のお勧め」という熊鍋(1万7250円)を頂くことにする。
先付けは「鯉の白子あんかけ」。鯉の白子にはねっとりとしたあんがかけられている。鯉の白子はくさみなく仕上げられており、独特の風味がクセになりそうだ。
そして「鮎のなれ寿司」。滋賀は日本の寿司の原型とも言われる、鮒のなれ寿司の発祥の地。ここ比良山荘では、鮒ではなく鮎のなれ寿司が提供される。醗酵された子持ち鮎は口に入れるとハラハラと崩れていく。柔らかい酸味がヨーグルトのようでとても頂きやすい。
こうなるとやっぱり熱燗を頂きたくなる。雪が降り積もる様子を眺めつつ、熱めのお酒が身に染みて心もゆっくりと開放されていく。
刺身は鹿に岩魚(いわな)、そして鯉の3種類。鹿と岩魚はこの山々で取られたもの。鯉はここ比良山荘の庭の池で泳いでいるものだ。山奥深い清流で育った鯉の洗いは、コリリと細かい骨の特有の食感に澄んだ味わい。岩魚もねっとりとした旨みに溢れた美味しさ。
鹿は柔らかい繊維質の身を噛み締めると甘味が広がる。フレンチの火を入れた鹿肉は、どちからというと固めの肉質を噛み締めるおいしさだが、それとは対極の柔らかい肉質を味わうことができる。まさに生の美味しさを堪能できる。
焼き魚は「岩魚の木の芽焼き」。ふっくらとした身に山椒の香りが漂う。青み大根の若々しい苦味がアクセントだ。先程の岩魚刺身の旨みとは全く違う、ほくほくの滋味深い味わいには満足だ。
そしてメインの「熊鍋」が登場するのだ。ここ比良山荘では、月の輪熊という事から「月鍋」と呼ぶ。当初は裏メニュー扱いだったそうだが、「この美味しさを、どうしても皆さんに知っていただきたくて、私の代から正式にメニューにしました。」と、笑顔が優しい現3代目ご主人。
マタギに特別に頼んで届けられるツキノワグマは、大輪の薔薇が咲くように盛り付けられて、純白と赤身のコントラストが美しい。脂身が多い様に見えるが、全くクドくなく柔らかくて軽やかだから不思議だ。「同じ熊でも、年によってだいぶばらつきがあるんです。今年の月の輪熊は、暖冬でドングリをたっぷりと食べたみたいで最高です。」と言うだけあり、とろけるような味わいに魅了される。すき焼、しゃぶしゃぶを参考に考案されたダシは、甘く濃厚だがあとをひかない。
キノコ類は冬になる前に塩漬けして保存しておくという。最後に「うどん」を頂く頃には体が汗ばんでいる。雪降りこむ窓を開けて冷気を楽しむ妻は、すこぶる満足な様子だ。
担当してくれた係りの方も笑顔をたやさずに丁寧な接客。ご主人と若女将も変わるがわる部屋に顔を出し、楽しいお話や月鍋の世話をして下さる。
俗世を離れた美しく雄大な自然に、静かに温かく佇むこの「比良山荘」では、自然と一体になりながら自然の恵みを堪能すると言う、人間本来の何かを思い出す清さがある。次は季節を変えてまたそれを体験したいものだ。
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