南青山「ランベリー」で楽しむ爽春のプレート

既にほろ酔いで「ザ・ペニンシュラ東京」から、一路向かうは青山のレストラン「ランベリー(L'EMBELLIR)」。銀座の「オストラル」から独立した岸本直人シェフのレストランで、東京ミシュランでは1ツ星がついている。
青山といっても一本裏通りでかなりわかりにくい。グーグルのストリートビューで確認して行ったのだが(道路からランベリーの入っている建物が撮影されている)、それでもタクシーの運転手さんもかなり迷ってしまった。
辿り着いた建物の入口、ライトアップされたモダンな通路、階段を降りると整列したスタッフが迎えてくれる。天井高6mという吹き抜け的造りの空間。吊り下げられた細長い照明が沢山並ぶ景色はクールで印象的。鏡も活用して狭い空間ながらうまく演出している。
週末だが7割程度の客入りだろうか。「ミシュランがついても最初だけで、今年はなかなか大変です」と若いサービスがふと本音を漏らしたように、不況の陰はゆっくりと進行しているのかもしれない。
スペシャリテを集めたという”H”ommageを頂く事にする。まず「濃厚なオマール海老のクリームとマンゴーとキャビアを乗せて」。オマールが入り、オマールでかすかに味付けした白色のスープを目の前で注ぎ込む。この手の前菜は、一般的なだけにジュレが平板だったり、ジュレの量が多いだけだったり、他の素材とのバランスが悪かったりと、そのレストランの力量が端的に出てしまう。その点ここ「ランベリー」のジュレは、ふくよかだが重すぎない。細かく切られたマンゴーの甘み、そして添えられたキャビアの塩気がバランス良く調和されていて、完成度のとても高いジュレだった。
シェフスペシャリテの「農園野菜のテリーヌ」。16種類の野菜がカラフルに美しく、テリーヌ状に形作られている。香辛料の風味もかすかに感じる。美しくておいしいが予想の範囲内。予想を超えた野菜のうまみと大地の滋味深さに、ただ圧倒されたミッシェル・ブラスの「ガルグイユー」ほどのインパクトは感じなかった。
そして「フォワグラの3段重」。最近はやりのいわゆるデクリネゾンの1種といえるだろう。フォワグラを3種類の調理方法(ポワレ・フラン・コンフィ)で味わうというフォワグラ好きにはたまらないプレート・・・と思いきや、コンフィの冷たい濃厚さ、ポワレの暖かさが同時に口に入るため、味わいがどうもバランス悪かった。ブルーベリー系の甘酸っぱいソースで素材をつなぐ意図は分かったが、食べ手によってかなり好みは分かれてしまうかもしれない。フォアグラ好きの妻は特に難しかったようだ。
「活アワビのロティー 海藻の香りと春野菜」。プレートの左側には、海草・海苔で表面を覆ったアワビのロティ。右側には京都の筍。大振りな京都の筍は表面に火が入り、絶妙な柔らかさを残している。サワークリームの軽い酸味とのバランスも良い。鮑もフォークを軽く入れるだけとスーと切れる、とても上品な柔らかさ。表面を覆った海草類の磯の香りがぱっと鼻の奥に広がり抜けていく。旬の素材を柔らかい触感で仕上げ、海草類、サワークリームという軽いポイントでまとめている。見た目にはシンプルだがなかなか考え抜かれた一品だ。
メインの子牛はとても軽やかなブルーチーズソースで、個性的にまとめあげられている。
素材をシンプルに、現代的に軽やかに美しく仕上げたプレートは、分かり易い美味しさを感じる。かといって単純ではなく一皿一皿考え抜かれたメニュー構成で、仕上げにも細かい手間や工夫が随所に見られた。季節感もふんだんに取り入れられており、コースの流れもなだらかで優しい。
敢えて言うなら、インパクトが薄いため(味付けではなく、そこはかとなく伝わる色気や存在感という類)、何かしら圧倒されるようなサプライズを受けることは少ないかもしれない。若いカップルのちょっとしたデートにはいいと思う。
サービスに関しては、トゥール・ダルジャン出身の長田ソムリエを筆頭に、若いスタッフの過不足ない接客が好印象で安心した時間を過ごせる。店内はかなり手狭に感じるが、壁沿いにうまくテーブルを配置しているので、さほど周りの席も気にならない。むしろ厨房の自動ドアが開閉する度に、キッチンのざわめきがダイニングに大音響で入ってくる事がもったいなかった。
春にふさわしい爽やかで軽やかな、洗練された岸本シェフのフレンチを堪能してランベリーを後にした。お土産に頂いたシルバーのミニバックにはクッキー。部屋に戻りそれを頂きながら「ランベリー」の余韻を楽しむ、そんな春の夜を過ごせた。
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