「ルレ・ルイ・トレーズ」でルイ13世の王位継承を味わう

「サン・ジェルマン・デ・プレ特集」のメインであるレストラン選び・・・ミシュラン2つ星の「エレーヌ・ダローズ」、1つ星の「ズ・キッチン・ギャラリー」も候補だったが、結局決めたのは「ルレ・ルイ・トレーズ(Relais Louis XIII)」。アンリ4世が暗殺された1610年、ルイ13世が王位継承した修道院がレストランになっているという歴史に惹かれた。
セーヌ河に程近い静謐な小さな路地三叉路に佇む小さなレストラン。さすがいかにも歴史を感じさせる佇まいだが、修道院だったという面影は一見ない。古びた木製ドアを通り抜けると手狭なウェイティング、ステンドグラス窓から入る光でオレンジ色のセピアな印象がまた良い。
そしてメインダイングに入る。ステンドグラスが美しい窓際、石造りに大きな木の梁が存在感を見せる中、壁にはルイ13世と王妃の肖像画が飾られている。意外と奥行きはあるがテーブル7卓の小さな空間だ。ダイニング一番奥にキッチンがあるらしく、ワインセラー周りにさらに2卓と個室もある。2階にトイレがあるので、客が階段を上るたびにギシギシと音が聞するのも風情だ。
小さなプレートをやや多めに味わえる「ムニュ デギュスタシオン(Menu degustation)」、中でもシャンパーニュが1本ついたお得感のあるコースを頼むことにする(140€)。同じ名前ですよとシャンパーニュ「ルイーズ(Pommery Cuvee Louise)」を持ってくるところがなかなかニクイ。
アミューズの根セロリのスープは、セロリを噛みしめるような風味が口いっぱいに広がる。セロリに塩をつけて噛みしめるような苦味の余韻も長い。前菜は3皿。ホタテのテリーヌ、蠣のグラタン、リエーブルのパイ包み焼きと続く。とてもシンプルで複雑さやインパクトはない前菜達だが、火を入れたホタテの甘みとテリーヌの繊細さのハーモニー、プリッとした蠣と表面を少し焦がした甘いソースのグラタンをストレートに味わう感じだ。
パイ包みは、パイがサクサクと綺麗に仕上がっており、家禽ウサギの身とフォワグラをからめながら頂く。迫力こそないものの綺麗で丁寧な仕上がり。魚は鮟鱇。身質はなかなかだったが、ソースの印象が蠣のそれとかぶってしまっていたのが残念。
一番おいしかったのはメインの子羊。とても綺麗に火をいれてロゼ色に優しい味わいの肉に仕上がっていた。ねっとりとキャラメリゼしたような食感の付け合わせ茄子が、アクセントになって最後までおいしく頂けた。
合わせた赤ワインは「ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton-Rothschild)1988年」。290€だから日本円にして何と4万円弱、つまりほぼ現在の市場価格そのものだ。その他「ラトゥール」も年代によっては290から350€あたりと、全体的に安めで良心的なワインリスト。ワイン好きというシェフらしく、最近備え付けたような近代的なセラーが美しく輝いている。
そのシェフ、マニュエル・マルチネス(Manuel Martines)は、「ルドワインヤン」「クリヨン」「ネグレスコ」などでキャリアを重ね、「トゥールダルジャン」の3つ星時代に料理長を務めた。その後ここを買い取り、2001年からミシュラン二つ星を維持している。
必ず各テーブルに顔を出し客と握手をしていくのをポリシーとしているようだ。4~5回はフロアーに顔を見せに来ていた。喜ぶ妻にウインクで返すシェフはさすがフランス伊達親父といった感じだ。
厨房には見習い含めて10名もいるそうだ。なるほど、料理はどのテーブルも待たせることなくテキパキと提供されてくる。女性ばかり3名程のサービスは、料理の説明も丁寧だし態度も優しい。ただ料理を運ぶのに忙しくて、ワイングラスが空いても注ぐのは滞る。ワインも気軽に扱うのでオリがグラスの中で舞っていたが、まぁ2つ星レストランとは思えない値付けだから良しとする。
今回訪問した同じミシュラン2つ星の「ル・サンク(Le Cinq)」と比較すると、圧倒的にル・サンクに軍配があがるが、「歴史的シェフが歴史的建造物の中で、クラシックなフレンチをシンプルに気軽に提供している」というのが肝なレストランといえる。
小さいテーブルは間隔も狭く、客層も地元客が多いため独特の空気がある。マルチネス氏宅の山荘に招待を受けたような感じだろうか。日本人にとっては「唯一行く星付きレストラン」としての期待にはそえないだろうが、「滞在時の変化球」という感じで利用するレストランだろう。
帰り際には「すいません、顔を出せと言われて・・・」とはにかみながら、日本人料理人がテーブルまで挨拶に来てくれた。藤田さんという可愛らしいその女性は、学生時代も含めて5年目のフランス滞在、まだまだこちらで修行を重ねるという。
ここに限らずあちこちのフランスのレストランでは、今日もたくさんの日本人が修行していることだろう。階級社会のフランスの、しかも厨房の中では苦労も多いだろうが、皆さん頑張って欲しいものだ。
ルイ13世の王位継承したその場所が美食の館となった400年後の現代に、厨房では日本人が修行し、フロアーでは日本人が食事している。そんな歴史の流れの感慨にふけりながら「ルレ・ルイ・トレーズ」を後にした。
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