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パリ「ル・サンク」、究極のジビエと伝説のソムリエに酔う(後半)

livarot.gif完璧なるシチュエーションにサービス、既に感動的な前菜達に美味しいシャンパンという状態。否が応でも更なる期待、更なる感動を求めてしまうのが人間の性と言うものだろうか(笑) という訳で、メインは
0911lecinq4 「せっかくだからジビエ(gibier)を楽しみたいな」

 「はい、今、鹿は良いですよ。ココアのソースで抜群です」
 「お~、では私はその鹿で、妻は子羊をお願いしよう」
 「あ、残念ながら子羊はお二人様からなんです。申し訳ございません」
 「私、絶対子羊なの」 「・・・・」「・・・・」

 ということで・・・当然私の鹿は即断念。色々検討した結果、二人とも同じ物にして「ピチヴィエ(pithivier)をお願いする事になった。数種類のジビエをパイ包みにしたピチヴィエは、「ラルース料理事典」に掲載されたことでも知られる、エリックブリファーの著名なスペシャリテ。シェフの師匠であるジョエル・ロブションも絶賛している一品だ。

 ジビエということで、サンテミリオンあたりを中心にワインリストに目を走らせ、「シャトー アンジェリュス(Chateau Angelus)1998年」をチョイスしようとした。すると、先ほど「コント・ドゥ・シャンパーニュ1998年」を選んだ際には「excellent!」と世辞を言っていた若いソムリエが真剣な顔で
 「アンジェリュスは素晴らしくていいと思います。しかしピチヴィエの濃厚な香りには、98年より2000年の方が絶対合うはずです」
 「2000年だと強すぎないかな?ちょっと熟成した方が好きなんだけど・・」
 「Non!いやいや、ピチヴィエには絶対2000年のアンジェリュスでございます」

0911lecinq5 と引き下がらず2度も繰り返し説得してくる。「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ (Alain Ducasse au Plaza Athenee)」のソムリエもそうだったが、一見の客に対してさえ、プライドをもってスペシャリテに合うワインを勧めようとする、その本気度が嬉しい。
 「D'accord!、わかったよそこまで言うなら、あなたの勧める2000年にしよう」
 「そうでなくては!」

 切り分ける前のピチヴィエが、香ばしい香りと共に丸状の焼き上がりで運ばれてきた。本来菓子を意味する「pithivier」らしくお菓子のような綺麗なパイ包み。表面の色気あるつややかな光沢はハチミツを塗っているのだという。それを目の前で切り分けて4分の1ずつ供される。そこへ「PITHIVIER!おおすごい香り!」と言いながらプレートを持って登場したのは、伝説と謳われる「ル・サンク」の支配人エリック・ボマール(Eric Beaumard)。

 エリック・ボーマールと言えば、1998年の世界ソムリエコンクール準優勝するなどソムリエとして著名だが(ラギオールに彼のモデルナイフがある)、現在はマネージャーとして「ル・サンク」の表舞台を取り仕切っている。それまで各テーブルに厳しい目を光らせつつ、主に常連客の相手をしており、こちらのテーブルには来なかったエリック・ボーマールも、シェフのスペシャリテを運ぶのは俺しかいないという風情でやって来た。
 しっとりとしたパイ生地の中にはコルヴェールの胸肉、腿肉のミンチと共にフォワグラや野菜が入っている。口に運ぶと熟成した野生の動物の香りが強烈に香ってくる。付け合わせには塩気たっぷりの野の穀物類。
 デキャンタージュしていた「シャトー アンジェリュス 2000年(900€)」が注がれる。メルロー比率の多い アンジェリュスは、どちらかというとサンテミリオンらしくない繊細さが好きなのだが、この2000年というビッグイヤーのアンジェリスは、果実味豊かな香り、濃厚なタンニンとアルコール分がインパクト抜群だ。確かに野生の香りが強烈なピチヴィエには、これくらいのワインでないと合わなかっただろう、さすがだ。

0911lecinq6 一口一口食べるごとにジビエの香りが鼻奥に漂う。なんだが自分が森の中に入り込み、ジビエの内臓に食らいついている気がしてくる(やめてよ~)。森の中で獲物のジビエと穀物を食べている、そんな感じだ。半分ほどでギブアップした妻を見て「お代わりもできますよ、もういらないですか?本当に?」と女性サービスがニヤリと笑う。
 前菜のおだやかな味わいから一変して強烈なインパクトを残すメイン。それは「美味しい」というより、「野獣まで食べ尽くす人間の強欲さ」と「生の高貴さ」をあらためて考えさせる一皿だった。

 美しい盛り付けのデザートも甘みと酸味のアクセントが心地良い。フォンダンショコラに焼いたパインは、なるほど絶妙なバランスだ。
 デザートワゴンに山積みの小菓子達はさすがにもう食べ切れない・・・というのに「本当に?ひとつも?」とまたもや微笑む女性サービス。・・というわけで、小さなトリュフ入りマカロンを頂く。鼻に抜ける香りが不思議とまた食欲を盛り返させる。ちなみに、中でもお土産に頂いたフルーツの生キャラメルはとても気に入った。

 「良いワインを飲んでくれたので、レストランからサービスです」と食後酒を出してくれた。私たちの喜ぶ様をエリック・ボーマールが遠くからさりげなく見ており、視線を送ると自然にはずし、何気ない様子で別のテーブルに歩き出す。そしてフィナーレは、テーブルに鮮やかな薔薇の花びらを散りばめてくれた。
 料理の世界に限らずどの世界でも、何気ない日常の中で全力を尽くす事ほど難しい事はない。日本のレストランも波があるところは少なくないが、安定した味・サービス・雰囲気をスタッフ全員で出し切るように教育された厳しさ、それに比例した客側の心地良さが印象的な、「
フォーシーズン・ホテル ジョルジュ・サンク パリ」が誇る「ル・サンク」での食事だった。

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