福岡「い津み」VS 大分「山田屋」、ふぐが美味しい季節

妻と大分駅で合流して向かうは「臼杵ふぐ 山田屋」。明治時代に開業という老舗「料亭山田屋」本店は臼杵にあり、「西麻布店」は東京ミシュランで3年連続で2つ星を獲得している。そして今回訪れたのは「大分都町店 山田や」という訳だ。
大分駅前から中央通りを昭和通りまで真っ直ぐ歩き、昭和通りを左折して福岡銀行あたりから右折した飲食街にある一軒家。揺れの多いJR電車で疲れた体を、「ふぐモード」にするためにゆっくり歩くには丁度良い距離だろう。
小奇麗で清潔感があるものの、狭い敷地の中に建てられた一軒家の中はぎっしり座敷で仕切っているため、壁を隔てた部屋のざわめきは筒抜け(まぁ臼杵本店だと違うのだろう)。忙しさもピークの時期だ。仲居さん達もバタバタしている。ゆっくり味わうというよりも年末の喧騒と共にふぐを楽しむ・・そういった感じだ。
定番のふぐ刺の薄切りはやんわりと色づいている。まず何も付けずにそのまま口に運ぶ。程よい柔らかさの身を噛み締めるとふくよかな旨みが広がる。本店がある臼杵市の佐志生から朝届いたふぐという。大分特産のかぼすを使用したポン酢はやや甘めだが、肝を溶かして頂くとちょうどよいあんばいだ。2人分の刺身としてはかなりの量で食べ応えもある。「ふぐ刺しだけでお腹いっぱいになったのは初めてね」とご機嫌の妻。
コースとは別に追加したふくよかな「白子」は、クリームチーズのような柔らかい食感で、白子フリークの妻も感心していた。そう言えば今年正月に紹介した下関「奈可越」の白子の方が、同じチーズの表現でいうとハード系的コクがあったように思う。
から揚げは「揚げ物の大分」らしく熱々バリバリの皮。身は少ないが塩・香辛料で味付けてあってカラッとした強い味わいのため、食べ終わるころにはやや舌が疲れた。ふぐ軍艦巻は、海苔の風味、肝の深み、ふぐの淡泊さが混じり合って適度な口直し。
そして上質の椎茸・おもち・野菜類などがたっぷりの「ふぐちり鍋」。もうここまで来るとお腹いっぱいでかなりの量を食べ残してしまった。「皆さん、お鍋の前までは調子がいいんですけど、このあたりからペースダウンするんですよ」と笑顔の仲居さん。締めの雑炊もやや風味や後味が強かった。
そうそう、「ひれ酒」も甘さが強いために2杯目を残してしまった。ひれにかなり強く火を入れて他店よりやや焦がし目なのは、甘い酒質とのバランスを取るものかもしれない。刺身・白子まではパーフェクト、その後の料理は良い意味で甘みも強い田舎っぽい味わいで、好みが分かれるところだろう。
一方の福岡でふぐと言えば「博多 い津み」。こちらも「山田屋」に負けじと創業80年を越える老舗だ。風格ある門構えに落ち着いたエントランス。2階にあがった靴脱ぎ場も広々としている。人数に応じてそれぞれ個室が用意されている。この季節は忘年会や個人的にも必ず訪れている店だ。
黄金色の煮こごりは凝縮した旨みをたたえている。やや厚めに切られた二段引きの天然ふぐは、適度に熟成してほんのうっすらとした飴色。旨味をたたえ柔らかい触感の奥には厚めの刺身らしい歯ごたえ。
優しい味付けの唐揚げ、特に要望しなければ調理場で小皿にとりわけてくるちり鍋と上品に頂くことができる。雑炊もふぐのエキスを適度に残しつつとても優しい仕上がりだ。
今回の「山田屋」対「い津み」。ふぐ刺身はがっぷり四つ。方向性は違うもののそれぞれふぐの旨みを十分に楽しめた。ポン酢は「い津み」のほうがふぐを邪魔しない味わいだが、「山田屋」には肝という楽しさもあってやはり五分五分か。
コストパフォーマンスは文句なしに「山田屋」に軍配。大分都町店は一番高いコースが1万円、白子をつけても1万3000円。何より刺身の量が十分だし、鍋も迫力がありかなりの満腹感がある。
「い津み」は、ふく会席1万円から特選天然ふくコース3万円までと幅があるものの、総じて量(刺身・鍋)が少なめ。そして中途半端な握りや茶碗蒸し等の口休めを出さずに、ストレートに河豚で勝負。だから他県からの客人の中には「もう終わり?」とこぼす人もいなくはない・・とは言え、上品に落ち着いた風情の中で洗練された味わいの「大人のふぐ料亭」といった意味で、総評としては「博多 い津み」に軍配をあげたい。
同じ「ふぐ」といってもお店によってコンセプトもかなり違う。そんな淡白な中にひそむ奥の深い店の在り方が、やはり淡白でいてふくよかな刺身とあい相まって、日本人を惹き付けてやまないのだろう。今年もまた「ふく」が年末年始を彩ってくれた。
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