エディション コウジ シモムラ、スペシャリテに酔う至福の夜

大きなガラス張りのオフィスビル「六本木ティーキューブ」の1階に、モダンな大人のフレンチレストラン「エディション・コウジ シモムラ(EDITION Koji Shimomura)」がある。
入ってすぐ照明を落したスッキリしたエントランス、奥に広がるメインダイニングは写真で受ける印象よりも余裕を感じる。奥突き当たりのガラスの向こうには、400本ほどのワインが眠るオブジェの様なワインセラー。個室もあるようだ。店全体が黒を基調にしたシックで大人の雰囲気がとても落ち着く。
そんなダイニング、どこかで見たような・・と考えていると、フランス・ブルゴーニュの「ベルナール・ロワゾー」、そのレストランのウェィティングスペースを思い出した。黒を貴重にした上質でモダンな印象だったが、その雰囲気に良く似ている。「ラ・コート・ドール(現ベルナール・ロワゾー)」で修行していた下村浩司シェフの感性がやはりつながるのかもしれない。
高い天井から下がる個性的な照明が、こだわりのカトラリー類や料理・ワインの色を、鮮やかに優しく浮かび上がらせている。エグリ・ウーリエ(Egly Ouriet)で乾杯しているうちにアミューズが運ばれてきた。生ハムを挟み込んだミニバーガー仕立てのキュートな一品だ。おしぼりにも遊び心があっていい。
前菜1皿目は「冷製ブーダン・ノワールのガトー仕立て」。ブーダンノワールをリッチで滑らかな食感に再構成した一品。リンゴとシードルビネガー添えが効いていて豚の血を感じさせない。しかも丸く可愛い3Dのガラス皿で出てくる、まるでデザートのようだ。妻は「チョコレートムースみたい!」と驚きを隠せない様子。この一皿で下村シェフの世界に引き込まれていく。
2皿目は「牡蠣の冷製 海水と柑橘のジュレ 岩海苔風味」。この前菜を目的に訪れる常連も少なくないというスペシャリテだ。海水で2・3秒ポシェした牡蠣の下には牡蠣と岩海苔のムース、上には柑橘を効かせたジュレに岩海苔の粉末。まろやかで奥行きがあり、そして綺麗な酸味が全体を支配している。「海水の中の牡蠣」をほおばっているような錯覚を覚えていく。「もう一個食べたいくらい・・」と妻、すっかり下村マジックにかかったようだ。
「カダイフを纏った的鯛のフリット」。メディアでもよく目にするスペシャリテだが、その印象を越えた味わいだった。カダイフは予想よりもとても小さく繊細にまとわされている。海外シェフの日本フェアーだと天ぷらをイメージしているのか、ごってりと存在感のありすぎるカダイフを纏わせるのだが、それとは対局の繊細さ。
見た目にも印象的なブロッコリーのクーリは、手長海老のブイヨンを含んでいてかすかな旨みがある。レモンのコンフィチュールが衣のサクサク感を殺さず、甘酸っぱさで味わいの変化を与えてくれて、あっという間に皿の上がなくなった。
そしてメインは「シャラン鴨のロースト」。表面の皮に切り目を入れて、それこそカリッカリに仕上げているのが初めての食感。じんわりと火が入っているのだが赤すぎることもなく、口にふくむと鴨のジューシーなジュがしみ出てくるような仕上がり。最近多い他店での「ロゼすぎる仕上がり」が苦手な妻も、あっという間に完食し「美味しい!」と一言。
鴨に合わせてDRC(Domaine de la Romanee Conti)の「リシュブール(Richebourg) 2000年」を。華やかですみれのような香りに、穏やかな甘みに続く圧倒的な余韻の長さ。コウジ・シモムラの存在感あふれる鴨にぴったりだった。
食後酒は、アンリ・ジロー(Henri Giraud)の「ラタフィア・ド・シャンパーニュ(Ratafia de champagne)」と、フォンセカのヴィンテージ・ポート(Fonseca Vintage Port)をチョイス。
お勧めのチーズと食後酒をゆっくりと口に含む時間というのは、フレンチレストランならではの至福の時間だろう。逆に、料理のプレートに満足していないとお腹は拒否してしまい、この「至福の時間」は訪れない。
ドライフルーツ、スパイス、シナモンの香りが何ともいえないラタフィア、そして、優雅な甘さに引き締まったアルコールが特徴的なヴィンテージ・ポートだった。
デザートからまた別世界がスタートする。まずは「3層の白いデザート」はライチムース、ココナッツアイス、ヨーグルト。お腹いっぱいと思ってたが、プリンプリンでサラッとすっきり口当たりよく美味しい。
続いてスペシャリテの「再構築したイチゴのタルト」。キャラメリゼしたピスタチオや分解タルトをイチゴで囲んだ見た目も美しいデザートだ。あとに出てくるマリネしたシャワシャワイチコもそうだが、なるほどシェフのイチゴへのこだわりを感じる。
そして、まるでコアラの顔ように可愛いカカオのムースの「カカオガナッシュとカカウォーター」。生クリームは使われておらず、黒オリーブとオリーブオイルでさっぱり仕上げている。カカオパウダーもスゴイがポイントは塩、これがいかにもフレンチらしい。カカオウォーターもスッキリでまさに大人のデザートだった。
スペシャリテで構成してもらった本日のお任せコース(Menu Structure・21000円)。その完成度、キメの細やかさやこだわりに、もっとゆっくり味わっていたいと、皿の中の料理がなくなっていくのが口惜しくなる気さえ覚える。
冷たいものと温かいものの温度差もはっきりしていて流れがある。バターやクリームを控える味わいでありながら(軽い現代的趣向を目指すあまり「これはフレンチ?」というレストランも少なくない)、フレンチらしい立体的でふくよかなプレートの数々だった。
下村シェフは折を見て各テーブルを周り、テーブルに合わせた会話をするなどの気配りも怠らない。サービス陣も笑顔を絶やさずスマートな接客で、シェフの哲学が浸透している感じを受ける。現代的で洗練された料理と大人の時間を満喫したディナーだった。
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