ANAインターコンチネンタル東京がピエール・ガニェールと業務提携して出店した「ピエール・ガニェール東京(PIERRE GAGNAIRE TOKYO)」。ピエール・ガニェールの直営店はパリの2つのレストランのみ。後はロンドン・香港・ラスベガス・ソウル・ドバイ、そしてここ東京で業務提携レストランを展開している。

エキゾチックなバブル時代を彷彿とさせるインターコンチネンタルのロビーには、ガニェール氏のPVや看板が出ている。エレベーターで36階に・・受付と門代わりに美しく設置されたワインセラーをくぐり抜けて店内に入っていく。やや狭い廊下を通ると、ダイニングに行く前の窓際にもテーブル席が用意されている。メインダイニングはゆったりとした造りで、真近に東京タワーが見える窓際にテーブルが4席、隣り合って座れるソファー席が3つ。個室や半個室も用意されている。旧青山店のように狭々しさはなくテーブル間隔も広いし、他の客の会話なども聞こえない。
スタッフのアジアンな黒服、やや落とした照明で天井に浮かび上がる蛍光オレンジやセラーの蛍光紫など、香港の「ピエール」を彷彿とさせる。ガニェール本人がかなり細かく内装の注文を出したということなので、彼の好みに仕上がっているのだろう。
日が落ちて来て、東京タワーに明かりが点るのと一緒に乾杯。「この景色はパリのエッフェル塔を思い出します」と感慨深げな仏人マネージャー、日本語も大層上手だ。まずは3種類のフィンガーフード。ジンジャーが効いて食欲をそそる。

「光沢のある伊勢海老のメダイヨン、ナージュのジュレとカリフラワーのサラダ リエビック コリアンダー風味 シャンパーニュのソルベ、伊勢海老のサルピコン」。伊勢海老はメダル型(メダイヨン)に綺麗に浮かんでいる。ふわっとコリアンダーの香りが漂う。底に沈んでいるカリフラワーのスライスも優しい食感。付け合わせのシャンパーニュのソルベはかなり甘く味わいの口直し。やはりカリフラワーのムースが印象的だ。
帆立貝は3種類のプレートが出てくる。1つの素材を様々な調理法で味わう、いわゆる「デクリネゾン」(変化)だ。「帆立貝のグリエで挟んだムラサキイモ、カンパリとラム酒でマリネした赤ビーツ」「エスプレット唐辛子を利かせた帆立貝のポワレ、レフォール風味の白ビーツと共に」「ターメリック風味の帆立貝のポワレ、ジギベーの付け合わせ」。ターメリック風味のポワレはわかりやすくて好きな味わいだが、他2種類は不思議な世界が展開される。スペイン産唐辛子を利かせた帆立は中央部分の白ビーツにはワサビもかなり効かせていて、強烈な味わいでワインが合わない。赤ビーツもカンパリとラム酒が効いていて、これまた日本人の理解を超えた独特な味わい。
「レグリーズを利かせたモリーユ茸、筍と旬の野菜、紫がかかったクリーム」。モリーユ茸のムースとモリーユ茸が絡み合い、とても余韻の深いプレート。やや大振りな筍、アスパラガスなどが黒米で色づけした黒紫っぽいクリームと混じり合う。モリーユというフランスの「春」、筍という日本の「春」。そんな季節感を全面に出しつつ、食後の印象も「モリーユを堪能した」という満足感を与えてくれる、しかし単純ではなく複雑な余韻。まさにフレンチならではの完成度の際だつ料理だった。妻は大層気に入っていた。

「柚子バターでゆっくりと火を入れた真鯛、タンドリー風味のグレープフルーツのフォンデュ イカ墨とじゃがいものムース」。低温で火入れしてしっとりした真鯛は柚子の香りが印象的。色合いは鯛の白、グレープフルーツの赤、イカ墨の黒など美しくアートされている。
「貝類のナージュとポワロー、毛ガニのプレッセ2色の蕪を濃厚なカニのスープで」。正方形のプレートの中央に正方形のくぼみ、そこにかにのスープの黄色のスープが色艶やかに映える。皿の上にも四角く入り取られた紅芯大根。
「ブレス産鳩胸肉のバロティーヌ、ロッシーニ風、茄子グリエのピューレ、赤ポルトソース 焦がしオニオンのジュレ、鳩モモ肉のパテ ”フェルナンポワン” スタイル」。フォワグラ、マッシュルームなどを包み込んだ鳩胸肉はとても小振りで小さい。しかし味わいは鉄分、血の香り、ねっとりした肉質など鳩そのもの。見た目以上に口の中で鳩の存在感が浮かび上がってくるようなプレートだ。火入れも丁度良くしっとりふっくらで、鳩を好んでは食べない妻も「これは美味しい♪」とあっという間に食べていた。ワインにも良く合った。

「モッツアレラチーズのアイスクリームとオッソーイラティー、グリオット、マーシュと花穂紫蘇と共に カリカリパンとロックホールチーズ、サフラン風味の乾燥フルーツを添えて ヴァンジョーヌで包まれたルブロッションと長薯を常温で」。3種のチーズは、それぞれアレンジされてて楽しく食べやすい。シソの使い方も仏人的でなるほどと言った感じ。
そしてピエールお得意のデザート三昧だが、和菓子を意識してか「菊型のマジパン」は抹茶風味で、下には柚子風味のダックワーズ。小さな「イチゴのロールケーキ」は普通にロールしてないドーム型などユーモア溢れる。しかし食後酒まで頂いたものの、細々していてピエール・ガニェールらしい本来の「食べきれない迫力のデザート」ではなかった。

香草系を多用した小皿料理というイメージは同じだが、どのプレートも複雑な仕上がりでありながら、素材の印象が強烈に残る。つまり小皿料理にありがちな「何を食べたか分からない」という点はなく、とても存在感があるプレートの数々だった。また「LESPRIT DE PIERRE GAGNAIRE」というコース名そのものに、「日本のフレンチ」ではなく「フランスのフレンチ」でフランスのエスプリに溢れている。
フロアーは満席だったが料理の出るスピードもテンポが良くて問題ない。サービスは今回はホテルのスタッフから選抜されているという事もあって、とても穏やかで礼儀正しい。料理についてもゆっくりと説明するし、また質問すると的確に教えてくれるなど「ガニェールの料理」に付いて回る「分かりにくい」という点を意識しているのかもしれない。パリ店から髭の特徴的なミッシェル・ドゥレピンヌ氏がマネージャーとして就任して、サービスでもパリらしさを表現している。帰り時には赤く甘い「シソ・ドリンク」を振舞ってくれた。

この夜の赤ワインは、妻の好みの「熟成したボルドー」ということで「シャトー・レオヴィル・ラスカーズ(Chateau Leoville Las Cases) 1976年」をチョイスした。保存状態が心配だったがコルクの状態もとても良かった。枯れた熟成香が淡く広がりタンニンはとてもすべらか。気持ち良い酸味を中心とした余韻が広がる。妻も大層気に入ったようでピッチの早い。時間が経つにつれてやや香りも落ち、味わいも刺激感が強くなったので、ペースが速くても丁度良かったか。
ワインリストは1万円から5万円位までの現実的なワインをそろえているが、興味を引くワインは少なくやや物足りないラインナップ。今後、ピエール・ガニェールの料理に合わせてワインリストも充実させていきたいということだった。華やかさやゴージャス感にはやや欠けるが、大人がより安心して通える「ホテルのレストラン」になったと言えるだろう。