「レストランひらまつ」と言えばワインの品揃えや価格設定に定評があり、ワイン会もソムリエが行なう人気の定例ワイン会(6000~15000円)から、平松シェフが登場する限定ワイン会(3~5万円)、極上ワイン会(10万円)などなど、ランクに応じて様々に催されていて面白い。
今回参加したのはシャトーヌフ・デュ・パプ「シャトー・ド・ボーカステル」を楽しむ会。1人3万円で30名限定。ワイン好きで沢山頂く私達にはとってもお得感がある。
東京から平松シェフと錦織ヘッドソムリエが来店。先日の金沢を皮切りにここ福岡、そして札幌・広尾・名古屋の各店で開催されるイベントよ。平松シェフが20年前からペラン家と交流していて、今回のガラディナーにつながったという。

コート・デュ・ローヌ地方といえば、北の「コート・ロティ(Cote Rotie)」はレストランで開けることもあるが、南のシャトーヌフ・デュ・パプというと、ボリューム感はあるも軽くてオープンな味わいで、完成度の高い料理にはあわせにくい印象がある。
正直いうと「ひらまつの料理」には合わないんじゃないかな」と思いつつ参加したのだが、料理に様々な工夫を凝らしワインとの接点を設けており、見事に予想を裏切られた。
「シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン(Chateauneuf du Pape blanc) 2007年」からスタート。ルーサンヌ主体のフレッシュで軽やかな白ワイン。花・蜂蜜・柑橘の香りが控えめに香る。この白に合わせて前菜が2品出てきた。
「カエルモモ肉の香草風味のフリット パセリのクーリと共に」は、ドンブ産グルヌイユに緑色も鮮やかなパセリのクーリをたっぷりと付けて頂くと、口の中いっぱいに柔らかな香草の風味が広がる。フレッシュで柔らかいミネラルを感じる白と上品にマッチした。

次の「アワビのナージュ仕立て 爽やかなゆずの香り アーティチョーク添え」は、アーティチョークのピューレのオレンジ風味、それにゆずの香りが、薄い柑橘系の香りを漂わせるシャトーヌフ・デュ・パプ・ブランにぴったり。香りに合わせたハーモニーが良かった。料理的には、アワビの肝とセップ茸を合わせた小さなアクセントがとても効いていた。
続いて「シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン ルーサンヌ・ヴィエイユ・ヴィーニュ(Chateauneuf du Pape Roussanne Vieilles Vignes) 2002年」。古樹のルーサンヌ100%で仕上げるという白ワインだ。濃いゴールド色に独特のずっしりとした香り。パーカーが「ローヌのモンラッシェ」というだけあって、ふくよかな余韻も印象的。
合わせた前菜は「アマダイとオマール海老のメダイヨン トリュフ風味のほうれん草のピューレ ノワゼットのムースリーヌ・ソース」。甘鯛を棒状にしたものをメダル型にして、上にオマール海老を乗せたもの。黒トリュフの軽い香り、そしてヘーゼルナッツの香りをまとわせて、ルーサンヌ・ヴィエイユ・ヴィーニュとの接点を作っている。
事前のガラディナー案内では「1990年」だったので「20年たったヴィエイユ・ヴィーニュはどう変化しているんだろう?」と楽しみにしていた。当日は2002年に変更になっていたので、あれ?とは思ったが、十分印象的な味わいで料理との相性もとても良かった。

肉の前に「ヴァッケラスのグラニテ」。口直しのグラニテはどうしても軽めの風味で用意しているレストランが多い。ワインを飲んでいると接点がなく余計に感じることさえある。ところがこのグラニテは、ローヌの赤ワインをふんだんに使っていて、さすがワインを楽しむガラディナーらしい工夫で嬉しい。
「小鳩のロースト サルミソース ボルドー風野菜のエチュベを添えて」は、赤の「シャトー・ド・ボーカステル(Chateau de Beaucastel) 2000年」を合わせて。シャトーヌフ・デュ・パプらしい軽やかさというよりは、煮詰めたように凝縮した黒い果実の風味。それに加え黒胡椒のようなスパイシーさに複雑さを感じる余韻。
このヌフ・デュ・パプらしからぬ凝縮した複雑さは、認定されている13種類の葡萄をすべて使っていること、そして収穫した葡萄を80度まで熱してすぐに18度まで下げるという醸造法から来ているのかもしれない。

小鳩はとても鉄分が綺麗に表現されている。サルミソースはワインに合わせていつもより軽くしたという。一方野菜のエチュベにはフォワグラを絡めて深みを出している。ボルドーやブルゴーニュとは違う方向のワインの特徴に、料理をうまく落とし込んだという感じだろうか・・・それぞれの要素を絡み合わせる、うまくできた螺旋階段のようなハーモニーだった。
赤ワインの最後は、「オマージュ・ジャック・ペラン(Hommage a Jacque Perrin) 2000年」。オマージュという名の通り、50年以上前に有機栽培を採り入れボーカステルの名を不動のものにした、3代目ジャック・ペランへの敬意を表すワインだ。野生の動物の皮のようにこもった独特の香り、ところが余韻はとても甘くて繊細。なかなかクセの強いワインで、妻は目をパチパチさせている(笑)
これに合わせるは「シャラン産鴨胸肉の軽い薫製とシェーブルチーズのサラダ」。シャラン産鴨胸肉の下にはチコリ、そしてパンドカンパーニュのクルトンがまぶされている。少し焦げた味わいのクルトンが効いており、古樹のムールヴェドルの特徴を引き出すサラダだった。
デザートは季節の「桃のコンポート マラスキーノ風味のグラニテ」で、マスカットの風味が豊かなデザートワイン(Muscat Beaumes de Venise Perrin et Fils)と爽やかなハーモニーで、この宴を締めくくる。今宵の「ひらまつ博多」水元康裕シェフの料理も、繊細でいながら凝縮し一皿一皿丁寧に作られていて良かった。福岡でこういうガラディナーはまだまだ難しいのだが、南和憲支配人も上手くさばいて進行をコントロールしていた。

ワインと食事の相性には色んなパターンがある。いわゆる定石もあれば、定石の崩しもあるだろう。素材とワインを合わせることもあるし、ソースや付け合わせにワインを合わせてみることもある。料理の香りにワインの香りを寄り添わせて共鳴させることも多い。肉の脂やジビエの血を増幅させるチョイスもあれば、逆に消す方向のチョイスもあるだろう。
ただ最近は「好みのワイン」と「美味しい料理」があり、愛する人と過ごす楽しい時間さえあれば、それで良いと思うことも多かった。久しぶりにプロが練った「料理とワインのハーモニー」というフレンチの一つの楽しさを堪能した一夜だった。