トラットリア・デル・チェーロで夏のイタリアを懐かしむ

梅雨も明けて猛暑の福岡。明日は西日本大濠花火大会、夏らしいイベントもこれからだ。こんな季節はやはり太陽が似合うイタリアらしい本物のイタリアンが食べたくなる。そこで今夜は薬院にある「トラットリア・デル・チェーロ((Trattoria Del Cielo)」へ行くことにした。
「イタリアの地方色が感じられるメニューを1人1万円程度で。パスタは2品つけてもらい1品はラグーソースで。肉は牛以外のお勧めを・・」と予約する。
用意されていたメニューは「アリア・デル・パエーゼ(L'aria del Paese) ~郷里の香り(Nostalgia per Nativo)~」と銘打たれたものだ。まずは、カ・デル・ボスコの「フランチャコルタ サテン(Ca'del Bosco Franciacorta Saten)」で乾杯。「マスカットのような・・夏らしくて良いわ」とご機嫌の妻。
洋梨、薄い柑橘系の混じり合った穏やかだが複雑な香り。サテンというだけあってとても滑らかな味わいだ。シャンパーニュ好きにも理解しやすいフランチャコルタの1本だろう。新しい女性スタッフも笑顔を絶やさず、細やかで安心できるサービスを提供してくれる。
アンティパストは「オードブルの盛り合わせ」。まず「小鳩のレバーのパテ」は、穏やかな甘みと奥行きのある味わいがサテンにピッタリ。「リグリーア風、鮑とじゃが芋のサラダ」は、ピクルスやパプリカを加えたサルサヴェルデ(パセリ)のソースが爽やか。鮪の干し肉(モッシャーメ・ディ・トンノ)のネットリした食感もおもしろいアクセント。
「シチリア風カポナータ」は、シチリアの古典ソースであるココアを使った甘酢ソース「サンベルナルド」が和えられている。とてもイタリアらしい前菜の数々が食欲を刺激してくる。
そして何とも豪華で美しいプレート「ブローデット ディ ペッシェ」。アドリア海沿岸で良く作られる魚介の煮込みスープ「ブローデット」を、港町のマルケ州のレシピに基づき作ったというアンコーナ風。アンチョビとワインビネガーを効かせた古典レシピだ。
「普通はもっとクタクタになるまでじっくり煮込むのですが、今日は、魚介を前菜的に頂いてもらおうとやや浅めにしています」という坂井裕伸シェフ。ミソが迫力の伊勢エビ、プリッとしたムール貝、表面に軽く火が入るも中はしっとりとして甘みをたたえたイカなど。
無言で必死にあっという間に平らげて、スープも飲み干し「力強くとても素晴らしいわ!」と感嘆の妻。確かに満面の笑みが出てくる美味しさだった。
そして1品目のパスタは「テスタローリ、フォルナイア風」。トスカーナ州・ルーニ地方に根付くイタリア最古のパスタという「テスタローリ」。ザラリ、モチッとした食感とツルリとした喉ごしが面白い。フォルナイアというトスカーナの古典ソースも、EXバージンオイルやペコリーノチーズが効いていて麺の風味とぴったりだ。これまた初めての美味しさが癖になりそうな、イタリア各地を修行した坂井シェフならではの一品。
2品目は所望していたラグーソース。「スヴェルズィーニ、鳩のラグー 夏トリュフ風味」。スヴェルズィーニは、鞭縄を意味する南イタリアの乾燥麺。細く縮れた麺を3本細やかに絡み合わせて、1本の麺(縄)にするというとても手間のかかる作業だ。ここチェーロでは手打ち生麺で丁寧なスヴェルズィーニに仕上げている。
鳩のラグーのこってりした深みのあるソースが良く絡んだ、もっちりと歯ごたえのある独特の食感が抜群だ。そして爽やかな夏トリュフの風味も立体的で、とても完成度の高いパスタだった。
メインは迫力の「仔豚料理の盛り合わせ」。10キロ前後の仔豚をシェフ自ら解体し、「骨付きロース肉のロースト」「肩肉のブラザート」「バラ肉のポルペット」の3種を盛り合わせた贅沢な一品だ。
香草で一晩マリネした「ロースト」は、優しく繊細でありながらジューシーなロース肉が綺麗に表現されている。「ブラザート」は、バルベラワインで煮込み果実とセロリのカラメリゼを加えて漉すというソースが、独特の旨みだ。
「ボルベット」は、バラ肉と軟骨を細かく刻んで網脂で包んで焼き上げられており、最初に感じるねっとりした味わい、それに続く柔らかな味わいが美味だ。付け合せのシチリア州パレルモ名物のパネッレもひよこ豆の風味が良かった。どれもこれも手間のかかった素晴らしい仕事で、シェフのイタリア地方料理の技術や造詣の深さが良くわかる。
赤ワインは「バローロ リゼルヴァ フォンタナフレッダ(Fontanafredda Barolo Riserva) 2000年」。真っ黒なボトルがイタリアらしいオシャレさだ。ネッビオーロ特有の鉄さび、藁の柔らな香りがとけ込んでいる。チョコレート・黒い果実・スパイスの香りもしなやか。熟成し溶け込んだタンニンと繊細な酸のバランスが良く、品のある味わい。
イタリアワインは単体で飲む時より、美味しいイタリア料理とともに味わうと、抜群の相性を見せてくれる。3種類の仔豚と味わうバローロ・レゼルヴァの相性は、イタリアワインのポテンシャルを再認識させてくれた。
ドルチェは「マントヴァ風パンケーキ 季節果実のスフォリアティーナ」。ミルフィーユの近代版のスフォリアティーナはトリュフの香りが食後に漂う。トルタ・ディ・パーネは、イタリアでも珍しくなった北イタリアの古典菓子。なんだか懐かしいような、デルチェーロらしい素朴な味わいだった。
イタリアの「風を感じる」というよりイタリアの「風土が迫ってくる」ようなプレートの数々。東京・銀座「エノテーカ・ピンキオーリ」、福岡「サーラ・カリーナ」などを経て、2年半ほどイタリア各地を修行したシェフは豊富な引きだしを使い分ける。
「福岡九州の人にもイタリアの地方料理を気軽に味わって欲しい」と通常のコースは3700円からとかなり値段を押さえ、店内も田舎風な素朴さでかなりカジュアル。一方で予算を伝えてどういう食材を食べたいか、どういう地方を食したいか伝えておくと、様々な「本物のイタリア」の味わいを堪能することも可能だろう。秋はジビエ、冬は北イタリア料理などまた次の機会が楽しみだ。
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