ベージュ東京「小島シェフ就任記念」を満喫する銀座の夜

今や銀座の顔とも言えるシャネル銀座ビルディング。最上階にはアラン・デュカスとシャネルのコラボで誕生したフレンチレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京(BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO)」があるのは言わずもがなだ。ピーター・マリノ氏によるシャネルらしい洗練の内装デザイン。ベージューのツイードで出来たインテリアやシャネルのロゴなどは、相変わらず女性達の心を離さないようだ。この季節は屋上テラスの「ル・ジャルダン・ドゥ・ツイード」も使える。
そして今年4月よりシェフが交代。巷で話題になっているという事もあり久しぶりに訪問した(前回はこちら)。新シェフはアラン・デュカスに「世界で最も私の哲学を理解し実践する日本人シェフ」と言わしめた小島景氏。モナコ「ルイ・キャーンズ」で3年副料理長をした後、青山「ブノワ」などを経て今回「ベージュ東京」就任となる。
客層は落ち着いたカップルのほか年輩の夫婦、大人の家族連れも少なくない。以前より年齢層が上がっているかな?初期の熱気のようなものは感じない。テーブルにはお馴染みシャンタル・ブランシー氏作カエルのオブジェ。
既にホテルの部屋でシャンパーニュは頂いてきたので白から注文。「フィリップ・パカレ コルトン・シャルルマーニュ(Philippe Pacalet Corton Charlemagne) 2002年」。
複雑さのある香りに優しい後味をゆっくりと味わう。パリ「アラン・デュカス オ プラザ・アテネ」のワインリストも充実していたが、それに並ぶようなイメージ。なるほど、同じソムリエが監修しているというだけある。「AUDACE(斬新)」「ELEGANCE BEIGE(ベージュスタイルの洗練されたバランス)」「EXCELLENCE(偉大なワイン)」の3つの層に分けて整理されているので、客側も楽しみながらチョイスできる。
今回は小島シェフの「新シェフ就任記念メニュー"ビアンヴニュ"(Découvrez KEI KOJIMA "Menu Bienvenu")」を頂く事にした。
朱の漆器が印象的な「旬野菜と地鶏のジュレ、クロスティーニ」。小島シェフの住む鎌倉野菜を全面に出した前菜だ。ニースでの市場通いが活かされ、今は毎日鎌倉の畑を回って新鮮な野菜を仕入れて来るとのこと。
予想をはるかに超えた力強い野菜の力に圧倒される。アスパラガスのムース、地鶏のジュレが底にあるほか、黒オリーブ・アンチョビ・卵黄などで作られたディップソースは、黒オリーブ風味が良く効いていて美味しい。
ちなみに、この根来塗は京都の今川勝英十津氏の作品。デュカス氏が「草喰なかひがし」で見て気に入ったという話だが、小島シェフの料理の醸し出す雰囲気が前より良く似合っている。
グリンピースの歯応えの残る感じが良い「グリーンピースの冷製スープとオマール海老」。目の前で色鮮やかな緑のソースが注がれる。これもグリンピースの味わいを濃厚に表現している。濃厚でありながらねっとりとクリーミー。ただクリームは利用していないということで、風味はあくまで優しく余韻も繊細で軽い。オマール海老もジューシーでジャストの火入れだった。
「アスパラガスとモリーユ茸のエチュベ」。前2品はとても軽やかだったのだが、このあたりで塩も含めてやや強めに変化してくる。モリーユの独特のこもった香りとグリーンアスパラガスの香りがふんわりと漂う。
アスパラガスの微妙な繊維の食感と、ギュッと柔らかいモリーユのコントラストが口の中でも美しいハーモニーを演じてくれる。春を告げるモリーユ茸とアスパラガスという黄金律の取り合わせ。見た目はとてもシンプルだが無駄な部分をそぎ落とした、エッジの効いた前菜で何とも美味しかった。小島シャフのスペシャリテの一つという。「野菜と対話できるシェフね」と妻が一言・・・なるほど。
「真鯛のソテーとフヌイユのフォンダン、黒オリーブとトマト」。南仏らしい軽やかな一品。ただしかなりおなかに余裕がある。余り量が食べられず残すことも多い妻も「あれ?もう次はお肉なの?」と言うくらい。
そして「仔鳩とフォワグラのロースト、新ジャガイモのリソレ ソース・サルミ」。気分を一気に高めてくれた一皿だ。サルミ・ソースだが普通のサルミのように濃厚さが全面で出るものではない。特徴的なのは若干の食感を感じる味わい。聞けば「内臓を30分ほど叩いてペースト状にしたもの」というが、味わい自体はとても洗練されている。
このソースがとても美味で、仔鳩には余り興味を示さない妻がこればかりは「このソースは一滴も残したくないわっ!美味し~い♪」などと感動している。ソースがどんどん軽くなる時代に逆に「ソース」で食べさせる小鳩は、さすが小島シェフでこそと言った感じだった。
合わせた赤は「シャンベルタン ジャック・プリウール(Jacques Prieur Chambertin)2000年」。ジャック・プリウールらしい分かりやすい美味しさ。驚きはないものの安定している。まだやや強いシャンベルタンも上手に飲ませてくれる感じだ。
この日私が選んだデザートは、たっぷりラム酒をかける「クラシックサヴァラン ラム パイン」。妻はいつも「ショコラ・プラリネ」だがこの日は爽やかに季節物をチョイスしたようだ。そしてお楽しみは生のハーブティー。パリの「アラン・デュカス」や「レ・ザンバサドゥール」では花壇状態てハーブが運ばれて来て圧巻だが、さすがにこちらではシンプルに厳選されたハーブ苗といった風情。目の前でちぎって作ってくれるので香りも楽しい。
チーズは常備6種類で、はけるのも早く常に入れ替わるといった状態だそう。もう少し種類を増やしてもいいように思う。
正直に言うと、前シェフ(Jerome Lacressonniere)の料理は美しくて凝ってはいたものの、美味しさが今一つで心に響くものがなかった。それに比べて小島シェフの料理は「素材のピュアーな美味しさ」を感じる。ただ本日チョイスしたコース(2万円)は、食べる量が多い人には物足りなく思うかもしれない(軽やかなので小食の女性にはいい)。また味付けも品が良く、基本的にシンプルなメニューなので安心して頂ける一方、「ベージュ的華麗さ」を求める人にはもしかしたら不満も残るかもしれない。しかしながら私達同様「以前のベージュは味がイマイチだった」と思っている人には、再訪する価値はあるだろう。
サービス陣は手慣れた接客で安心して食事に集中でき、質問すれば的確に色々と返ってくる。料理やワインの話で盛り上がるのも楽しいだろう。帰り際に「キッチンを見て行かれませんか」と勧めてくれたので、聖域ながら失礼します・・・とお邪魔させて頂く。
とても綺麗に磨きあげられたキッチン。若いパティシエ達が作業しながら笑顔迎えてくれ、更に奥に進むと小島シェフが静かに立っていた。小島シェフは口数が少なくとてもシャイで優しい感じ。素材に向き合う料理がなるほど分かるような凛とした空気を感じてとれる。妻は「禅なるシェフね~♪」と上機嫌だった。
かつて、シャネルとデュカスの「夢のコラボ」と話題をさらったここ「ベージュ東京」。「新生小島ベージュ」として再出発したが、今後もそのコラボが続いていくのか・・・もしくは何らかの変化を見せて行くのか・・・色んな事を考えさせるこの日のディナーだった。お土産のマカロンを頂きながら「また次来る日が楽しみね~」と妻がつぶやいた。
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