銀座「鮨 水谷」、洗練の新店舗で味わう至福の時
以前から妻共々気に入って伺っている「鮨 水谷」。この度、銀座8丁目の2番から7番に移転したという事で再訪した。真新しいビルの9階、エレベータポーチにはライトアップされて浮かび上がる「水谷」の看板。以前の古いビル地下からの移転という事もあり、店内は随分と明るく開放感があるイメージになった。

握りの素晴らしさはいわずもがな、ご主人・水谷八郎氏の人柄も魅力的。この世代の方には珍しい感覚はまさに粋。人柄やセンスが素敵な形になって「鮨 水谷」はますますグレードアップした。
シックでブラウンと木の温もりが優しい雰囲気の美しい店内。まずは冷酒で乾杯、おちょこは「バカラ」のショットグラス。水谷氏はバカラコレクターなので、自宅で眠っているグラスを「せっかくだから」とこの度いくつもお店に出したとの事。店入ってすぐの新ディスプレイボックスには、なんと「バカラの原型」と言われる幻のアンティーク・グラスが置かれていたりする!他にも素晴らしい漆塗りや焼物、ミシュラン3ツ星記念ビバンダムなども入っているわ。
バカラの横には美しい白磁の小皿・・これは人間国宝「井上萬二」作の有田焼!と目を丸くした私に「良い器は使ってあげないとね」と一言、おっしゃる通り。さらに水谷氏が鮨を握っている手元にのいくつかの萩焼。しかもかなり美しい形で休雪白に見えるが、なんとこれはご主人自身の作品。聞けば人間国宝「三輪休雪」の窯で焼いたという。
萩焼好きの私は去年も二度萩焼の窯まで行っているが、三輪氏の窯に入れる人は現地でもなかなか聞かない。しかも直々に手解き受けながらの器作りとの事。旧店オープン時には、お祝いで配ったおちょこが現12代三輪九雪作と言うのだからさすが。
ついでに細かい店舗内装をお話しすると、欄間や窓枠には「桂離宮」を参考にした細かな大工仕事、クローゼット扉のツマミは「スワロフスキー」。そうそう、箸置きはすず器の名店・京都「清課堂」の物。わさびや京野菜をモチーフにした可愛い芸術品。
壁掛けの絵は京都で作られた俵屋宗達「風神雷神」の織絵。これまた宗達好きの私は、ゆかりの場所にあちこち行っている程だが、この二カ所に分けて飾られる風神と雷神の織絵には本当に見惚れた。
新店舗の趣味の良さを讃える私に「だから、俺じゃねーって」と笑いながら江戸弁で返す水谷氏。「あれやこれやお客さんから頂いた物でね」との話で、良い常連客が沢山ついていると言うのは、まさに人柄・・と改めて感心した。本来長居しないように作られる寿司カウンター席も、ここでは敢えてヨーロッパ製のフカフカで心地の良い椅子にし席間隔も広くしたとの事。
妻の店話も終わりにしてようやく寿司の話(笑) この日もお任せで握りをお願いする。ツマミ系から始まる寿司も楽しいが、握りの完璧な寿司屋では、ツマミなしのほうが満足感が得られるだろう。冷酒「賀茂鶴」をバカラのお猪口で少しずつ口にふくませながら、握り一貫一貫を堪能することにした。
「鰈」は、うっすらと上品な脂を薄くまとった綺麗な身質が印象的だ。「コハダ」は相変わらず絶妙な締め具合。「イカ」は凜とした噛みごたえとほのかな甘味が初夏らしい。
そして「赤身」「中トロ」「大トロ」と続く前半の山場を迎える。本日は石巻のマグロという。「40・50キロで・・まだまだですね」ということだが、この時期にしてはなかなかだろう。力強いシャリとまじりあうマグロの酸味・血の香りが口中に広がる。
「ガリ」も酢の奥に清涼感を感じるタイプで好きな系統。美しい「貝柱」は洗練された味わい。「ミル貝」はしなやかな歯ごたえの後に、ふくよかな独特の甘さ。「鯵」は嫌味でない適度にのった脂が美味だ。「シャコ」はギュッとエキスが詰まったような味わい。味噌を噛ませた「車海老」、ふんわりした江戸前の「穴子」、控え目ながら奥深い甘味の「タマゴ」で最後の山場を迎えた。
水谷氏の握り姿は相変わらず背筋が伸びて美しい。握りも端正な美しさ。手でつかんでも箸でつまんでも、口の中に入るまできちんとした形を保つ(最近の若い握り手の鮨はネタは上質だが、形が歪だったり崩れたりすることも少なくない)。シャリは味が強いがバランスがいい。以前のように力強くハラケルというよりは、しなやかに混じり合うという感じだった。梅雨前後の時期はマグロ含めて寿司ダネが難しい端境期だが、一定の品質でピタリとまとめてくるのはさすが。
この日も、妻ともども満足して「水谷」を後にした。
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