夏の京都、俵屋旅館で涼の極上料理を楽しむ
盆地である事から風が吹かず夏の暑さが厳しい京都。新幹線のホームに降り立つだけで独特の蒸し暑さを感じる。こんな猛暑日は市内を車で少し散策して早々に常宿の「俵屋旅館」に向かう。スタッフの皆さんの笑顔の出迎えと「文月の設え」に癒されつつ、この日もまた暁翆庵に通される。ほのかに香るお香、隅々まで磨き上げられた美しい日本建築。庭も屋根も壁も毎日欠かさず手入れされ、どこから見ても美しいのはさすが。床の間の設えは、華やかな対の掛け軸「祇園祭礼図」、弁慶と長刀鉾だ。

運ばれてきた特製わらび餅で少し寛いだ後は、既にたっぷりと湯がたたえられた檜作りの風呂の中に身を横たえる。
浴衣に着替え、静寂に包まれた部屋で夫婦二人の時間をゆっくりと過ごすうち、京の夏にほてった体も自然と冷やされていく。雷とともに夕立が通り過ぎ、さらに涼しくなってくる頃、お待ちかねの夕食が始まった。
まずは相変わらず繊細で美しい先付けの数々が運ばれてくる。いつものお部屋係りの方が注いでくれた食前酒は、俵屋旅館自家製の山桃酒。甘くで良い香りで期待を高めてくれる。杯の裏には祇園祭月らしい長刀鉾の絵。ちなみに今回の箸置きは涼しげにバカラだ(我が家も愛用している)。
夏の京都と言えば鱧。早速登場した「鱧寿司」から頂く。「寄せ蛸の子柚子あんかけ」は、卵白で寄せられた子の食感が何ともいえず楽しい。小茶碗は「冷し冬瓜」。とても優しい味わいの冬瓜の中には鴨そぼろが隠れている。

こんな猛暑続きだとビールでまず一杯となりがちだが、我が家では和食でもまずはシャンパーニュを頂き、それから日本酒に移ることも多くなった。白や赤だとどうしても料理を選ぶが、シャンパーニュだとそれほど違和感なく楽しめる。むしろビールの苦みは繊細な和食には合わなく思う事も多い。そういった訳で今宵はシャンパーニュ「ポメリー(Pommery)」と共にゆっくりと頂くことにする。
続いてお刺身は「油目へぎ造り、アラ千利造り、海老洗い」。ねっとりした油目、口の中で存在感を発揮する綺麗な身質のアラを堪能する。いつ頂いてもこちらの刺身は上質で、関心するほど綺麗な味わいだ。
椀物は「グジの蓮蒸し」。清らかでありながら滋味深く、上品で深い味わい。上に添えられた針牛蒡も程良いアクセント。漆塗りの美しい器には蛍。毎度季節に合わせた細工に見とれる。
さて、この時期のお楽しみの鮎。特製の竹器に笹を燻しモクモクさせてお馴染みの「笹鮎焼き」が登場する。笹葉の香りと鮎の香ばしさに包まれながら頂く。俵屋旅館では日によって、そして時期によって様々な鮎を仕入れているという。本日の鮎は琵琶湖・安治川のものだ。小振りでぎゅっと凝縮したような身と程良く苦み走った今年初の鮎に舌鼓を打った。たで酢も相変わらず美味。

鮎に合わせて添えられているのが「太刀魚バター焼き、椎茸・アスパラ」。ふくっらとした太刀魚を縦に巻いて、柔らかくバターで焼いている。すだちをかけて椎茸やアスパラとともに楽しく頂く。これまたシャンパーニュに良く合う。
御凌ぎには「穴子昆布巻き、賀茂茄子、木ノ芽」。とてもなめらかに色っぽく仕上げられた昆布と、じんわり味わい染み出す賀茂茄子を、木ノ芽の風味とともに味わう。まさに京都の夏だ。
熱々の蒸気をたたえジュージュー音を立て、メインの「鱧鍋」が運ばれてきた。鱧の出汁をまとった、ほくほくの鱧の身が口の中で渾然一体となる。「なんて美味しいのかしら♪」と妻。
焼麩や笹葱も熱々。ボリュームたっぷりなのだが、底に隠れているくず切りが、これまた絶妙な歯ごたえとのど越し。スルスルと喉を通るとさわやかな清涼感さえ感じる。「お腹一杯でもう入らないと言っていたご年輩の方も、美味しくて全部食べておられました」と笑顔のお部屋係りさん。

俵屋旅館オリジナル冷酒をちびちびと頂きながら強肴、炊きたてほくほくのご飯と泉州水茄子。鮮やかなボンボニエール(ギャラリー遊形で購入可)に入った季節の「桃甲州煮」で夕食が締められた。
いつも繊細な「日本の美」を表現する黒川修功料理長の料理。そこには料理長の優しい人柄と俵屋のホスピタリティーも伺えるような気がする。本日はまた「鮎」「鱧」という京の夏をメインに、味付けも濃淡がクッキリとしていて食べ応えがあった。
馴染みの宿で穏やかな空気に包まれて、身も心もゆったりとして過ごす「京時間」。言葉にはしにくい、このような感覚こそが歴史深い「京都」ならではの醍醐味なのだろう。
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