宿泊先はそう遠くはない「グランドハイアット東京」、今回は最上階の「プレジデンシャルスイート(Presidential Suite)」から機嫌よくドレスアップして恵比寿のお城に向かった。朝から雨が降っていたので心配したけど、夕方出る頃には雨も止んで地面も乾きつつあった。

さて数日前から、フランスから台北を経由してジョエル・ロブション(Joel Robuchon)氏が来日している。シンガポールにも出店予定との事で、さすが今世紀最高の料理人は世界からひっぱりだこ。日本でも連日の取材と都内の店舗巡りというハードなスケジュールをこなしていたさすがの天才シェフは65歳。
いつもは名古屋や横浜の店舗も行かれるそうだが、今回は2年ぶりの「シャトーレストラン ジョエル・ロブション(Château Restaurant Joël Robuchon) ガラ・ディナー」を行うと言う事で、東京から出ずにその準備をされていたらしいから、ますますこの日が楽しみでこの数日間ずっとワクワクしていた。なにせ、この日のためにジョエル・ロブション本人が選び抜いた最上のクオリティー食材で、ロブション氏自ら厨房に立つという一夜限りの「特別ガラディナー」なんですもの!

19時に伺うと既に客席はほとんど埋まっている。予定より早く来た人も多かったらしく期待のほどが伺える。いつもの席に案内される。テーブルにはロブション氏のサイン入りのメニュー。これこそが当日まで試作を繰り返して微調整を行ってきたという、オール新作一夜限りのガラディナーメニューだ。
まずは、パリパリした「フランス産フレッシュセップ茸の薄焼きタルト」が運ばれてくる。金で縁取られたプレートには、可愛いセップ茸の絵柄。
季節のセップを贅沢に利用した1品は、口にふくむとセップ特有の「コクのある土草」の香りが鼻の奥に広がる。思わず笑みがこぼれて、料理に引き込まれていくような感じだ。ローマ皇帝ネロをして「神々の食べる肉」と言わせしめたセップをとても綺麗に表現した1品だ。これにはグラスシャンパーニュを合わせた。

続いて「タスマニアサーモン 花穂シソと共にタルタルにしキャビアとのシンフォニーを奏でて」。オーロラに輝く器には、ふっくらピンクのタルタル・サーモン、上にはキャビア。とても旨みにあふれていて、何とも表現しがたい絶妙なバランスの美味しさ。特にシソの花とともに口に入れるとふわっと香りが抜けていく感じ。
キャビアも「たっぷりとご用意しました」というだけあって迫力の量だが、妻は「なんて美味しいの!?オカワリしちゃいたいわ♪」と興奮気味だ(笑)

本日のガラに合わせて、信国武洋シェフソムリエが豊富なグラスワインを用意していた。白は「パープクレマン(Chateau Pape Clement)2003」「エルミタージュ ド・ロレ(Ermitage de L'Oree) シャプティエ2005」「ビアンヴニュ バタール・モンラッシェ ドメーヌ ルフレーヴ(Bienvenues Batard-Montrachet Domaine Leflaive )2005」「シャトーシャロン(Chateau-Chalon)2002」など、赤は「シャトー・ド・ボーカステル シャトーヌフ・デュ・パプ(Chateau de Beaucastel Chateauneuf du Pape)2001」「コス・デス・トゥルネル(Chateau Cos d'Estournel)2004」「シャペル・シャンベルタン ポンソ(Chapelle Chambertin Ponsot)2002」など。料理に合わせて工夫された贅沢なワインの数々だ。

「今日はお祭りですから、ムートンなんかもご要望があればグラスで開けますよ」と信国ソムリエ。ロブションは来日して以来、朝からレストランに入り、ダイニングの花の装飾など細かいところもチェックするため、皆ピリピリするというが、逆にそんな緊張感さえ楽しさに変えてスタッスの皆さんがイキイキとしているため、客側にも「お祭りの楽しさ」が伝わってくる。

更に続いて「フォワグラとブルターニュ産アーティーチョークのデュオ 極上パルメザンチーズを添えて」。実はさっきのタルタルのプレートに、極上白トリュフが使われる予定だったのを、ロブションの意思でこちらのプレートに使われたという。もうダイニングはまさしく極上トリュフのまろやかなで芳醇な香りが充満している。丸ごとテーブルに運ばれてきた大きなソレに鼻を近づけながら妻は「もう犬でも豚でもなっていいわ~」と恍惚の表情だ。
敢えて細く薄切りされたガチョウのフォワグラの繊細な味わいが、パルメザンチーズなどとサラダ仕立てになった一皿。アーティーチョークもぎりぎりの計算されたしっとりした食感がとてもいい。酸味できれよく仕上げている。

ウニにはまっているというロブションらしい一皿の登場、「特選生ウニ 天城産真妻ワサビのエマルジョンムース かすかに揺れ動くフランにのせて」。
ウニの握り寿司をフレンチに昇華させたようなイメージ。ウニのフランにワサビのムースが彩りも華やか。北海道のウニも贅沢に添えられている。スプーンは和チックに紅漆だ。バラバラにならずとてもバランスが良い、さすがの一品。これは信国ソムリエセレクションのグラスワインの中から、シャプティエの「エルミタージュ ド・ロレ(Ermitage de L'Oree)2005」で頂く。

ふんわりドライアイスの煙を出しながら、妻曰く「金魚鉢」のようなカラフルな器が出てきた。その金魚鉢のような蓋をとると、「ブルターニュ産活オマール海老 プールサレでロティし サフラン風味のコシヒカリに乗せ」がお目見えする。「香り高いオマールブイヨンを注いで」・・いい香りが立ち上がる。こちらもぎりぎりの火入れでしっとり仕上げたオマール海老。
芯に堅さを残しサフランの香るコシヒカシが下に、上にはモンサンミッシェル産のムール貝が鎮座している。ブイヨン自体が甲殻類の風味と旨みにあふれているのだが、これをコシヒカリを崩しながらオマールと頂くとさらに複雑な味わいに。これには「ビアンヴニュ バタール・モンラッシェ ドメーヌ ルフレーヴ(Bienvenues Batard-Montrachet Domaine Leflaive )2005」を合わせて頂く。その濃厚な味わい同士の複雑なハーモニーを楽しむ。

「シャトーシャロン(Chateau Chalon)でゆっくりミトネ」されたメインの「ブレス鶏はココットに仕上げて」運ばれ、目の前にて取り分けられる。ココットの蓋を取ると「ジロール、トランペット、松茸」などが絡み合った香りがフワーとテーブルに流れる。
そして上質で旨みにあふれた滋味深いブレス鶏。日本人が食べる「鶏」の概念を越えた滋味深さ。付けわせはロブションスペシャリテの例のマッシュポテトだ。妻は「こんなブレス鶏食べた事ない!」と真顔で言っている。

これにはたまらず「DRC ロマネ・サンヴィヴァン(DRC Romanee St. Vivant)1995年」をチョイスする。「複雑な香りですね。オレンジ、そして紅茶をたいたような香り・・キノコのような香りも少しですが出始めています」という信国ソムリエのコメントとともに味わう。「紅茶をたいた」という表現はとっても新鮮。目の前のロマネ・サンヴィヴァンの印象をピタリと言い当てている。プロフェッショナルの的確なコメントを聞きながらワインに向き合えるのも、一流ソムリエのそろった一流フレンチレストランならではの贅沢な楽しさだろう。

6品とも完成度が高く、口に料理を運ぶたびに妻とついつい顔を見合わせてしまう。これだけピシッと着地するコースもなかなか記憶にない。作り手に自信がなかったり確信を持てなかったら、食べ手には微妙に伝わってしまうものだ。着地点にぶれがなく確信しているからこそ、これだけの料理になるのだろう。
また「美味しさ」は、食べての好みや食の経験に左右されることも確かだ。ただ万人が受け入れる「美味しい幅」「ストライクゾーン」は厳然と存在し、ロブション氏はそこにきちんと全ての皿を揃えて来るため、客側としては脱帽するしかないのかもしれない。

チーズを楽しんだ後はデザート。カラフルなチ円形板チョコが印象的な「プティ・タルト・ポワール レ・ダマンドのスープにひたし カシスのソルベを添えて」と、少量ながらフランスらしいコクと香りのチョコレートムース「ショコラ ミラベルの香りをつけたプルーンのコンポートに合わせて」と続いていく。
食後酒は「ワレズ ヴィンテージ・ポート(WARRE'S Vintage Port Symington Family)1908」を頂く。「ディケム(Chateau d'Yquem)もグラスで大丈夫ですよ」と勧めてもらい、これは妻が頂く。最後の温かい生のハーブティーは癒しの時間だ。
満ち足りた贅沢な空気が各テーブルから流れ出す頃、ジョエル・ロブション氏が厨房から挨拶に出てくる。完璧な料理にこだわる彼は、コースが終了するまで厨房を離れることはないという。しかも機嫌が悪い時はフロアに出てこないこともあると聞いて(笑)、妻はソワソワしていた。そんな折にロブション氏がにこやかに登場して、優しく頬にベーゼしてくれた事に妻は大喜びだ(笑)
連日多忙でこの日も朝からプレス取材を精力的にこなした後に、厨房に出ているにもかかわらず疲れも見せない。翌日はラトリエのランチにも顔を出して翌々日にはもう離日するという。事業家としても非凡なところを見せるロブション氏だがその本領は、料理人としての才能にあることを改めて深く認識させられる一夜の饗宴だった。