「京都吉兆 嵐山本店」で満喫する雅なる日本の秋
京都・嵐山といえば「渡月橋」。「月が橋を渡っているような様」と亀山上皇が名づけたという。全長250mという長さ、この日も観光客がたくさんいて風流とは程遠かったが、さすがに夜は橋一帯もシンと静まり返って、昼間の喧騒が嘘のよう。この桂川沿いにある立派な門構え、ここはご存じ「京都吉兆 嵐山本店」。
門をくぐると緑豊かな庭、数寄屋造の建物が見えてくる。玉砂利をふみしめると、中門で若い衆数人がさっと現れて、美しく整った庭を通って玄関まで案内して下さるわ。静かな玄関を上がると、美しく着物を着こなした仲居さん達が出迎えて下さり、磨き上げられた廊下を案内され丁寧に「中広間」に通される。
ほう・・これは素晴らしい。秋夜の静寂の中、部屋の明りに浮かび上がる石庭が見渡せる素敵なお座敷。明るく広々とした室内は、床の間に嵯峨菊などにあちこち季節らしい設えが工夫されていている。天井にも模様が描かれて、黒く光る美しい漆塗の卓に映って雅な世界。京情緒を感じるには十分なシチュエーションよ。
今年今月21日でちょうど80周年を迎える目出度い「吉兆グループ」。日本料理界の重鎮だった創業者・湯木貞一氏の孫、徳岡邦夫氏が仕切る「京都吉兆嵐山」を久しぶりに訪問することにした。部屋の様子に目をこらしていると、早速料理と菊が浮かんだ食前酒が運ばれてきた。そしてワインリストを所望する。
シャンパーニュ・白・赤ともにかなり充実したラインナップで驚く。湯木氏も晩年は「フランス料理のフルコースが好き」と公言していたというから、徳岡氏も遺伝子が騒ぐといったところか。確か今頃彼はカリフォルニアのワイナリーにいるのではないだろうか。
色々リストは眺めていたものの、結局数日前のエディション・コウジ シモムラでの「アンリオ プレミアムディナー」の高揚気分が残っていて、結局は「アンリオ・キュベ・デ・アンシャンテルール(Henriot Cuvee Des Enchanteleurs)1995年」を注文することにした。
相変わらず美しい着物姿の女将が来られて、わざわざボトルの抜栓をしてくださる。シャンパングラスは「吉兆」ロゴ入りのバカラ。落ち着いたイエローゴールドの中をとけ込んだ小さな泡がシュルシュルと立ち上る。
香りは、濃い目のカフェオレ・黒砂糖・松の古木の皮など・・濃厚な旨みが余韻に広がる。妻は「王子トマ(アンリオ当主トマ・アンリオ氏)の顔を思い出すわ~」などと一人ご満悦の様子だ。
まず運ばれてきたのは「蟹と酢のゼリー」。とっても柔らかな酸味にタラバガニの繊細な身が絡み合う。ほんの一口だが味わいのバランスが優れていて、まるで秀でたフレンチの前菜のように一気に引き込まれいく。
続いて「松茸と鱧の椀物」。美しい漆塗りには金の菊が描かれている。蓋を開けると丹波の松茸の香りがぱっと広がる。吸地は濃厚なエキスだが澄んでいる。脂ののった鱧の身はしっとりしていて舌に絡みつき、松茸は舌の先で細やかにほぐれていく。
「出汁はいかがですか?濃いすぎませんか?また薄すぎませんか?」などと好みを確認して頂いたが「ジャストの美味しさ」というほかなかった。濃厚な旨みを感じるのだが後味は爽やか。澄みきっているのだがそこはかとない色気がある。久々に2人して「ちょっとやられたな」という感じの印象の椀だった。
刺身は「鯛の鹿子造り」。器はなんと400年前程の「古染付」ではないか?!青い文様が美しい。こういった物がさらっと出てくるのが「嵐山吉兆」の素晴らしいところ。
その瀬戸内の鯛は肉厚があるのだが柔らかで、ほのかな甘さを感じる。カワハギの肝をベースにしたもの、出汁をベースにしたものをお好みで。「出汁」の方では鯛本来の甘みと食感を味わう。「カワハギ」の方はぱっと焦げたような典雅な香りが漂った。一瞬、鯛の皮をあぶった香りかと思ったが、出汁の方で頂いた場合には香らない。聞くと、カワハギの肝を炙った上でベースにしたというから細かい仕事である。
続いて、菊型の赤土「楽焼」皿で出てきたのは「トロとイカ」。ボストン産のトロは軽く炙り、好みでガーリックも一緒に酢橘の絞った醤油で頂くという趣向だ。「イメージ的には鉄板焼きかしら?」と妻。確かに外国人にも受け入れやすい味わいだろうし、もちろん日本人的にも美味。
和歌山のイカは好みで胡麻を散らした醤油で。とろっとした歯ごたえのイカと胡麻とのハーモニー。この辺りのセンスには脱帽した。
そして照明がゆっくり落とされたなと思ったら、仄かに浮かぶようにキャンドルが灯された「八寸」が登場してきた。以前より小振りでおとなしめな印象だが、紅葉などで可愛いらしく飾ってあり、秋情緒あふれた美しいプレートだ。
鯛の磯辺巻きには添えられた梅の印象が残る。火入れの的確な一口の牛肉・海老・イカなどバリエーション豊かで楽しい。おからは軽くバターを加えたという、とても不思議な味わい。
焼きは「グジの石焼き」。高知産の肉厚のあるグジ(アマダイ)はジューシーでふっくらふくよかな味わい。何と表現すべきだろうか・・素材の水分の残し具合が絶妙なので、とてもしっとりとしており、素材そのものがせりあがる感じだ。炭火焼きにした上、熱々に熱せられた石に引かれた葛の葉の上に、季節の銀杏などと鎮座している。とても良い香りが漂う。
シャンパーニュに続いて後半はいつものように冷酒を頂くことに。冷酒は岐阜「白扇酒造」に特別に作らせている山田錦ベースの「吉兆貞翁」ほか計2種類しかないという。ワイン類の充実ぶりに比べて、日本酒は敢えて絞り込んでいるところが面白い。当然ながら吉兆オリジナル「吉兆貞翁」を頂くことにした。
ふくよかな甘みの存在感。しかし決して鈍重ではなくさらりとした飲後は清涼感さえ感じる。料理との相性を第一に考えた、さすが湯木氏が作らせていたというだけある。
ちなみにこちらでは、その白扇酒造の「福来純三年熟成本みりん」を使用しているとのことだが、実は我が家でも同様のみりんを長年愛用していたので、これまたちょっとした驚きだった(笑)
そういえば、今も湯木氏の代からのお花の先生が設えを担当されているという。この脈々と波打つ伝統もまた吉兆の強みなのだろう。サービスを担当してくれた女性は「グランヴィア京都店」での勤務を経て、自ら志願し本店に移ったらしい。細やかな心配りが出来る方で気持ちよく食事を頂けた。彼女もそうだったが、ここはスタッフ皆がきちんと「湯木貞一の哲学」をしっかり学び受け継ぐ努力をしていて感心する。
華やかな器(伊万里?)の「焚き物」は、ひろうす・焼き南京・小芋・ほうれん草。柚子が香る。妻が「このひろうす、チーズっぽい感じがしない?」というので聞いてみると、ひろうすのアクセントにマヨネーズを入れているのだという。うーん、このあたりの調味料の出し入れが面白い。奇抜に走ってしまうのではなくて隠し味と深みになっており、このあたりも吉兆ならではだろう。
締めはしっとりした「松茸ご飯」。細かく刻んだ松茸とともに炊かれ、できあがりに太く切った松茸をさらに和えたという。松茸の風味が迫ってくる味わい。前半の山場の椀と同じくとても濃厚でありながらキレのよい印象だ。添えられたのは地鶏の塩焼き。塩味がきかせてあり何とも相まって美味しかった。
フルーツの盛り合わせは「萩焼」で供せられ、甘味は、黒砂糖と葛を練り上げた中にゆりねが入った「初雁」。最後は「雪富正月屋」と記されたお湯呑の茶でしめられる。
帰りの時間もあってかなり早いペースでもう終わり?という感じもあったが、思い返してみると全ての皿の満足度が高い。また少し盛り上がりに欠けたかな?という感じもするが、すべての皿のじわじわと迫ってくる剛速球にそのまま押し切られただけという感じもしてしまう。いずれにしても満足度は高い。
帰りには徳岡邦夫総料理長も出てこられ女将とともに見送って下さった。妻も「スーパー2ショットね♪」とご機嫌だ。このお二人のリーダーシップの下、厨房・サービスともに向上心にあふれ、才能ある若手がたくさんおられるようだ。そんな「チーム吉兆」としての底力があるからこそ、この嵐山という舞台での美食を、現代に至るまで脈々と維持できているのだろう。そんこと事を考えながら、静まり返った秋夜の「嵐山吉兆」を幸せな気分で後にした。
| 固定リンク
「グルメ・クッキング」カテゴリの記事
- 開業1周年を迎える「アロマフレスカ 博多」 都会の森でイタリアンを楽しむ夜(2012.02.21)
- アイル・ビー・バック ご用命「俵屋吉富」 京まいこちゃんボンボン他(2012.02.19)
- アロマフレスカ 博多に登場!洗練イタリアンで満足の夜(2011.06.21)
- 「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」開業半年と「アロマフレスカ」との関係(2011.10.05)
- アロマフレスカ銀座、優雅なイタリアンを穏やかに頂く幸せな夜(2011.12.05)
「デザート・スイーツ」カテゴリの記事
- 開業1周年を迎える「アロマフレスカ 博多」 都会の森でイタリアンを楽しむ夜(2012.02.21)
- アイル・ビー・バック ご用命「俵屋吉富」 京まいこちゃんボンボン他(2012.02.19)
- アロマフレスカ 博多に登場!洗練イタリアンで満足の夜(2011.06.21)
- 「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」開業半年と「アロマフレスカ」との関係(2011.10.05)
- アロマフレスカ銀座、優雅なイタリアンを穏やかに頂く幸せな夜(2011.12.05)
「ワイン・酒」カテゴリの記事
- 開業1周年を迎える「アロマフレスカ 博多」 都会の森でイタリアンを楽しむ夜(2012.02.21)
- アロマフレスカ 博多に登場!洗練イタリアンで満足の夜(2011.06.21)
- 「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」開業半年と「アロマフレスカ」との関係(2011.10.05)
- アロマフレスカ銀座、優雅なイタリアンを穏やかに頂く幸せな夜(2011.12.05)
- レストランひらまつ博多、穏やかに愛を語るLOVEな夜(2012.02.16)
「京都グルメ」カテゴリの記事
- アイル・ビー・バック ご用命「俵屋吉富」 京まいこちゃんボンボン他(2012.02.19)
- 京都「七味家本舗」本店限定「あげおじゃが」 de 清水参り土産(2012.02.18)
- 大阪 Hajime「ハジメ レストラン ガストロノミック」 究極を目指す緻密な料理(前編)(2012.02.10)
- ハジメ レストラン ガストロノミック オオサカ ジャポン 研ぎ澄まされていく技術と感性(後編)(2012.02.13)
- 大阪「Hajime(ハジメ レストラン ガストロノミック)」で冴えたる頭脳的フレンチを堪能する(2011.05.14)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 開業1周年を迎える「アロマフレスカ 博多」 都会の森でイタリアンを楽しむ夜(2012.02.21)
- アイル・ビー・バック ご用命「俵屋吉富」 京まいこちゃんボンボン他(2012.02.19)
- アロマフレスカ 博多に登場!洗練イタリアンで満足の夜(2011.06.21)
- 「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」開業半年と「アロマフレスカ」との関係(2011.10.05)
- アロマフレスカ銀座、優雅なイタリアンを穏やかに頂く幸せな夜(2011.12.05)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 開業1周年を迎える「アロマフレスカ 博多」 都会の森でイタリアンを楽しむ夜(2012.02.21)
- アイル・ビー・バック ご用命「俵屋吉富」 京まいこちゃんボンボン他(2012.02.19)
- アロマフレスカ 博多に登場!洗練イタリアンで満足の夜(2011.06.21)
- 「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」開業半年と「アロマフレスカ」との関係(2011.10.05)
- アロマフレスカ銀座、優雅なイタリアンを穏やかに頂く幸せな夜(2011.12.05)








