俵屋旅館、しみじみと美食を満喫する京都の秋
秋の京都に入り、いつものドライバーさんの迎えでまずは寺院巡りとする。京都風情に少し浸ってから馴染みの「俵屋旅館」に向かう(2010年 正月/春/夏 はこちら)。その玄関に足を踏み入れた瞬間から俵屋ワールド、独特の安らぎの時間が始まる。前回夏の設えでも述べたが、毎月変わる館内全体の設えも楽しみだ。玄関には「金地秋草図屏風」、そして朝鮮時代文机と根来輪花盆に鹿水滴、静々とした秋らしい風情。
いつもの部屋「暁翠庵」に入る。今日の床の間の掛物は江戸琳派・酒井抱一の「月鹿画賛」。宵の月みねこすしかをかぞえけり・・と書かれている。手入れされた庭なども眺めているうちに、いつもの特性わらび餅とお茶が供せられる。ほっとするひと時だ。磨きあげられた檜風呂には既に適温の湯がはられている・・ゆっくりと身を沈めて旅の疲れを癒す。
さて夕食の時間だ。食前酒は自家製のレモン酒、柑橘系のフレーバーが食欲を刺激する。杯の絵は満月にススキと秋らしい。先付け「烏賊雲丹和 銀杏 蟹松風 栗麩松の実和(笹巻) 海老ずんだ 栗茶巾 いちょう煎餅 木ノ芽」。銀杏も可愛らしく、いつも手の込んだ細かい仕立て。烏賊雲丹和は上品な甘みにねっとりした食感が絡んで行く。栗茶巾など口の中から秋が広がっていく感じだ。シャンパーニュ「ポメリー(Pommery)」とよく合う。
小茶碗「湯葉磯香仕立て 三ツ葉 山葵」。磯の香りがほのかに漂い、とても繊細な味わいで心が洗われるようだ。この先付け・小茶碗を食べ終える頃には、旅の疲れもとれ身も心も緩んでいく。
夫婦二人の会話以外には何も音がしない静寂が広がる。大通りから微妙に離れて佇む俵屋は、相互の部屋も絶妙な間隔で位置する。その立地と立て付けの妙が作り出す静寂の中に溶け込みながら頂く夕食は、また特別のものがある。
向付「鯛へぎ造り 鱧薄造り」。へぎ造りの鯛は造り醤油で。微かな弾力を残しつつとても柔らかい身を噛み締めるとじんわりと甘みを感じる。最近食べた鯛の中では抜群だ。
そして驚くべきは「鱧の薄造り」。ミニチュア細工のようにとても薄く、そして細やかに包丁を入れられている。中央部分にはやはり細かく切られた皮。ただ見とれるばかりである。これを柚子醤油で頂く趣向だ。美しく透明感あふれる刺身は押しつけがましくなく洗練された味わい。
煮物「穴子祖穀蒸し 松茸 芽葱 柚子」。蒸し穴子のしっとりした食感に松茸の香りが絡み合う。とても繊細な薄味が優しい気分にさせてくれる。妻は大層気に入っていた。豪華な漆塗りの器は表も裏もしっかり金の秋草蒔絵が施されている。いつも思うがここ俵屋の椀器がどこよりも豪華雅だ。
焼物「鱧白焼 薬味 千利醤油 鴨羽二重焼き」。白焼きの鱧は口の中でとろける、綿菓子の泡のような繊細さだ。鴨の二重焼きは一見グラタン風だが、実はユリ根をすった物でとても繊細でまろやか。「まさに鴨が葱をしょって来た感じね♪」と妻。
シャンパーニュが終わるといつものように俵屋特性の冷酒へ移行する。甘みもあるのだがふくよかでコクがあり、和食とは抜群の相性を見せる日本酒だ。やはり俵屋特性の冷酒器で頂く。
お凌ぎ「子持鮎鞍馬煮 すだち 焼舞茸 菊菜 菊 切り胡麻」。銀杏が敷いてあり酢橘の細工も美しい。メリハリがあって秋らしい菊の美味しさ。
温物「鳴門ぐじ 海老芋 壬生菜」。贅沢に甘鯛と海老芋を上品に鳴門揚げしてある。この甘さとホクホク感が癒される。
強肴「帆立南蛮酢 椎茸アチャラ漬 針長芋 人参葉」。アチャラとはアチラ(外国)・・つまり南蛮漬。キりッとしたさっぱりさが好みだ。ふくよかな厚みで存在感のある椎茸は、口に含むとしっとりとしていて何ともいえない美味を醸し出す。
止椀「赤出し」と共に豪華な「松茸ご飯」が運ばれてきた。ふわ~っと部屋中に松茸の香りと香ばしさが漂う、これはまさに秋!またこれでもかといった沢山の松茸でご飯が見えないくらいだ。
締めに相応しくきゅっと濃い目の味わい。いつもは茶碗軽め1杯だが余りの美味しさについお代わりをする。「いやだ~太っちゃう~!でもこれなら太ってもいいや~」とまたお代わりの妻。なんと完食だ。
と、そこに「白ご飯もよろしければどうぞ」と更にお櫃が運ばれて来た(笑) 京都市中から1時間程の愛宕山の裏、越畑という村落から届く新米だ。2日に一度必要な分だけ精米をしてわざわざ届けられるという。そういう目に見えない徹底した俵屋のこだわりには頭が下がるばかりだ。最後は定番の水物「無花果甲州煮」をさっぱり頂く。
黒川修功料理長の料理の数々はいつ頂いても清涼感にあふれている。繊細な技術で食材の味わいを引き出す。料理長の「もてなしの心」にあふれた料理を頂くうちに、まるで心が洗われていくような清らかな気持ちになるから不思議だ。
俵屋旅館に脈々と流れる正統派らしい清らかな潔さ、まっすぐ芯が通った爽やかな強さ・・・もう数十回通っているが、回数を重ねる度に魅力が深まっていく、これが京都・俵屋旅館の俵屋旅館たる所以だろう。さて次はいつに伺おうか、そこからすでに京都の楽しみが始まっているのである。
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