寒い日が続き雪まで舞ったこの年末年始。暖かい家で家族とゆっくりワインを楽しみながら過ごす年越しはこの上なく幸せだ。去りゆく年を振り返りつつ、また迎える新しい年に思いをはせつつ、ふさわしいワインを選ぶのも楽しい。
まずは、年末に合わせてセラーの奥から引っ張り出してきたのは「フィリポナ クロ・デ・ゴワセ(Philoponat Clos des Goisses) 2000年」。シャンパーニュ地方では珍しい単一畑の一つで、シャンパーニュの「ロマネ・コンティ」とも言われている。フィリポナ社が1935年に購入して以来65年目のヴィンテージだ。

オレンジのかかったゴールド色。非常に細かい気泡が、シュワシュワと小さな音をたてながらグラスの上方に上り続ける。華やかな白い果実。ミネラルをまとった上品なニュアンスは、クリュッグの第一印象にも似ている。さらに洋ナシのコンポート、しっとりしたパン・デ・ピス、メイプルシロップのような香りも。心地よい酸が口元をキュッと引き締めつつ、コクのある旨みを押し広げてくれる。飲み干した後には「点」のようなかすかな苦味を感じ、また果実のしっとりした甘味もあるのでバランスがとても良い。
最初は「インパクト薄いかも・・」と言っていた妻も、「あれ?飽きないわね~」と最後まで付き合った。そんな不思議なジワジワ来る魅力あるシャンパーニュだ。赤ワインをはさんで2時間後、最後の1杯は白ワイングラスで味わってみる。ネットリしたシェリーのような風味も漂いだしている。強すぎず柔らかすぎず、謙虚すぎずしかしでしゃばらず・・・そんなシャンパーニュだろう。
そしてこれも取って置きの「アンリ・ジロー コード・ノワール(Henri Giraud Code Noir Brut)」。黒ぶどう(ピノ・ノワール)のみで作られるブラン・ド・ノワール。イギリスやモナコの王室ご用達というアンリ・ジローが、2008年からリリースするシャンパーニュだ。

ボトルはクリアでスマートモダンなデザイン。グラスに注ぐと薄いサーモンピンクが細やかで、クリーミーな泡が湧きあがっていて美しい。見た目通りにアタックは優しいが、後半にかけてアルコールをドンと感じていく。「シャンパンカクテルみたいね・・」と妻。確かにリキュールのような独特の強い余韻がある。香りも控え目だが、洋ナシ・ぶどうの皮・シロップ・オーク樽由来の熟成した香りなど複雑ではある。まろやかなミネラル感でバランスの良い前半、ところが後半にかけて個性が出て、押しの強さが出てくる。
名前の「コード(Code)」とはつまり遺伝子。つまり2007年にピノ・ノワールの遺伝子情報を初めて解析したことに由来するネーミングという。その「普通そうにみえて普通でありませんよ」という肩肘はった味わいが、1・2杯では気づかないが、1本飲み干す頃には少し疲れを感じさせるのかもしれない。
さて、赤ワインの1本目は「シャトー・シュヴァル・ブラン(Chateau Cheval Blanc) 1997年」。オーゾンヌとともにボルドー右岸・サンテミリオンを代表するシュヴァル・ブラン。
甘い果実のチャーミングな香りに続き、腐葉土・湿った杉の木の皮・動物の毛。かなり酸が出ているが、後半には程よいスパイシーさが広がる。まさにシルキーな質感が口の中にとどまる。何かしら迫ってきたりアピールしてくるというより、穏やな香りとしみじみと上品な飲み口。色気はないがとろりとしたエキス分を感じる。

1時間半すると、コーヒー・チョコレート・甘い食後酒のようなニュアンスもふんわりと流れ出してきた。それ自体完結していて余り食べ物を欲せず、ただグラスに向かい合っていたい、そんなワインだった。1997年というヴィンテージのせいかもう少し早めに味わってみたかったが、妻は逆に「もう少し待ちたかったわ」という。飲み頃に幅があると言われるシュヴァル・ブランらしい印象の差だった。
続いて地味な存在だが、ボルドー・ポイヤックらしい味わいの「シャトー・デュアール・ミロン(Chateau Duhart-milon) 」。そう、なんと今回は1940年を開けることにした。1855年の格付けで4級の評価を得るが、相続を繰り返し評価を落としていく。そしてついに1962年にロートシルト家が買収してから評価を上げつつある。
1940年だからまだラベルも古いものだ。コルクは途中までスムーズにいったものの、3分の1、しかもその半分が残ってしまう。デキャンタージュしつつ何とかコルクを取り除く。グラスの向こうが透けて見えるような見事なレンガ色。腐葉土を通り越して備長炭、乾燥した黒トリュフやピーマンの表面を焦がしたような・・かすかな香り。数秒のうちに刻々と変化を見せる。粘土と黒土のまじりあった厳しいニュアンスに、遠くに凝縮したトマトケチャップや香水・麝香・・・もっとも味わいは酸化してしまった酢のイメージ。
飲み頃は明らかに過ぎているのだが、スワリングすると遠からず様々な香りが立ち上るので、ワイン自体としては「生きている??」と言えるのかもしれない。正直美味しくなく妻はやっぱり口を付けただけで終わったが、70年という歳月を空想しながら、その香りの変化を最後まで楽しむことができた(?)

3本目は妻も安心の「シャトー・マルゴー(Chateau Margaux) 1970年」。茶色に近いレンガ色。酸がややたっているが、十分に溶け込んだタンニンがシルキーな印象を醸し出す。上品に漂う香水・年季が入り使いこんだ皮・晩秋の朝方山深い森・・・といった香りがゆっくりと湧き上がる。梅酒のようなニュアンスも感じる。やがて心地よいスパイシーさも漂い始めた。その周りを薄くてしっとりした果実味が覆っているようなイメージ。
「凝縮した優しい果実味」という若いマルゴーの特徴が、奥に控えているのを感じる・・その高いポテンシャルが乱れずに綺麗に年輪を重ねたというべきか。熟成したボルドー特有の癒しの味わいに、マルゴーの女性らしい高貴さが重なっていた。
最後は「アルマン・ルソー シャンベルタン クロ・ド・ベーズ(Armand Rousseau Chambertin Clos de Beze) 1988年」。アルマン・ルソーは、我が家のブルゴーニュでは「定点」となるワインのうちの一つ。昔ながらのしみじみとほっとするブルゴーニュだ。実はこの「シャンベルタン クロ・ド・ベーズ」、現地フランスのボーヌ村で仕入れたもの。品揃えが良い店だったので、ルソーのシャンベルタンなど複数購入し、日本への郵送を依頼した。ところが送られてきたボトルはかなりラベルが汚れていて、明らかにチョイスしたものと違う・・「やられたかな?」と思いつつセラーで保存していたものだ。
コルクはかなりしっとりしているがキチンとしている。元々色調は薄めのルソーだが、さらにグラスの向こうが透けて見えるような色合い。赤い果実のコンフィ・土・動物の毛・黒トリュフといった熟成香が綺麗に漂う。アタックは酸味が強すぎたが、時間とともにスパイシーさも広がりバランスがとれてくる。甘味とタンニンも残っていて、やや強めの酸味と逆三角形のバランスを形どってくれた。
「梅のような酸が強いけどなかなか美味しいわ」と妻。「スパイスと動物香」というジュヴレらしいニュアンスが、ルソーの上品な優しさとともに熟成している・・そんな満足のいく1本だった。

そして新年、お節に合わせたのは「ボランジェ・ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(Bollinger Vieilles Vignes Francaises) 2000年」」。そんなこんなで思う存分にワインを楽しんだ2010-2011年末年始。この幸福感・満足感は縁起の良いものだが、さてこれから一年、どんなワインたちと出会えるだろうか・・・楽しみだ。