更に ジョエル・ロブション来日 ガラディナー Extravagance a la Truffe Noire 2011(後編)
さてさて、「ジョエル・ロブション来日 ガラディナー(前半)」に続き、更に盛り上がる宴の後半を綴って行くとしよう。冬がいきなり逆戻りして来たかのような寒い夜、恵比寿に美しく浮かび上がる城「シャトーレストラン ジョエル・ロブション(Château Restaurant Joël Robuchon)」でそれは行われた。昨年10月以来、再びジョエル・ロブション(Joel Robuchon)氏が来日してのイベントとなる。
この夜は「Extravagance a la Truffe Noire 2011」と銘打たれ、黒トリュフ(Tuber Melanosporum)を全面に打ち出したメニュー。今回もロブション氏本人が厨房に立っている。秋のガラとはまた違った少しカジュアルな雰囲気の賑わいで、日頃「ガストロノミー ジョエル・ロブション」を任されているアラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)シェフもご機嫌な様子だ。
さて前半に続き、お待ちかねの「冬のスペシャリテ タルト・オ・トリュフ(La Truffe)」。今はなき「タイユバン・ロブション(Taillevent Robuchon)」時代には定番だったというロブションのスペシャリテだ。が、「ガストロノミー ジョエル・ロブション」になってからは7年間で2回目、しかも2年ぶりの復活という。
薄いパイ生地の上に20枚以上のトリュフのタルトが贅沢に敷き詰められる。キラキラ輝いてまさに黒い宝石のようだ。ペリゴール産黒トリュフの中心部分のみを、何とも贅沢に利用して丸くくり抜かれたトリュフ。オリーブオイルでマリネして岩塩がまぶされている。
トリュフを丸かじりしているような心地になる・・これに合わせるグラスワインは「シャトーヌフ・デュ・パプ シャトー・ド・ボーカステル(Chateau de Beaucastel Châteauneuf du Pape) 2001年」。食べ終わった後にワインを口に含むと、オリーブオイルをまとってねっとりしたトリュフの風味をさらに増幅させてくれた。
そして本日私が一番気に入ったプレートが「地鶏卵の最適加熱 トリュフのクーリとコシヒカリのヴルーテを注いで(L'OEuf de Poule)」。黒トリュフと半熟卵という黄金の組み合わせだが、普通で終わらないところがジョエル・ロブション。
コシヒカリの上に地鶏の半熟卵とブロックのトリュフ。そしてプレートの底にはトリュフのクーリが敷かれているのだが、さらにテーブルで白い液体が注がれていく。これが何とコシヒカリのヴルーテ。かすかな薫香が効いているのは、ヴルーテにベーコンで出汁を取っているからという。
半熟卵のネットリと舌にからみつくような粘着性と地鶏卵の豊かな風味、トリュフとからみあう薫香、ヴルーテのスルスルした喉越しが絶妙に絡み合う。言わば「卵かけご飯」を再構成した「トリュフ卵かけご飯」といった風情だろうか。素材を組み合わせ、その単純な足し算ではなく掛け算によって、素材を越えた味わいを創出するのはまさにフレンチの真骨頂だろう。
続いて「トリュフとハーモニーを奏でる野菜達 エチュベにし、カリカリにしたキャベルをかぶせて(Le Chou)」。大きな一枚のチリメンキャベツがパリパリの平面に仕上げられて、プレートを屋根のように覆っている。「下に何があるんだろう」と思わせるプレゼンテーションも楽しい。
中のエチュベされた野菜もなめらかな口触りに仕上げてあり、チリメンキャベツの「煎餅」のような食感と一緒に目だけでなく舌も楽しく頂けた。

メインは「黒胡椒の香る特選和牛 マデラ酒で蒸し煮したトリュフと共にポンムピュレにのせて(Le Beouf)」。仙台産の和牛ロース肉をブロックのまま焼いてサイコロ状にカットしたもの。表面には黒胡椒がまぶされアクセントだ。ロブション・スペシャリテのポンム・ピュレが敷かれているのもツボを心得ている。そして「マデラ酒で蒸し煮したトリュフ」が贅沢に固形のまま供せられる。その歯ごたえ・風味となまめかしい味わいがトリュフディナーの最後を飾ってくれた。
赤ワインは、「胡椒」「牛」「トリュフ」という要素からボルドー、ポイヤックあたりの熟成したワインを探してiPadの画面を開いていく。信国ソムリエに相談して最終的にチョイスしたのは「シャトー・ラフィット(Château Lafite-Rothschild) 1986年」。
まだまだ力強い色調、黒い果実、アタックのネットリした舌触りに伸びていく余韻。「もちろん黒トリュフの香りもしますし、ジロール・セップのようなキノコの香り。そして、森・菩提樹・ユーカリのようなニュアンスもあります」と信国ソムリエ。デキャンタージュしてゆっくり飲む。とても濃厚でありながら、一方でどこまでも静かなエキス分を味わうような心地になる。
「タイユバン・ロブション」時代に、タイユヴァンの当時のオーナー、故ジャン・クロード・ヴリナ氏が持ってきた「ラフィット1986」の最後の3本という。「ワインはお客様に飲んで頂くものですから出し惜しみなんて一切しませんよ」という信国武洋シェフソムリエの心意気もなんだか嬉しい。
その「静かな上品さ」は「ラフィット86」のポテンシャルに加え、10年以上静かに「お城」の中で熟成された保存状態の良さにもあるのだろう。このボトルの中でゆっくりと流れたであろう時間に思いをはせながら、そしてある意味感謝しながらゆっくり味わった。
「シャトー・ラフィット」は5大シャトーの中でも「分かりにくい」と言われることもあるが、去年夏にここで飲んだ1978年、そして今回の1986年を通じ、その「気品にあふれた高貴な女性」的なニュアンスが、体感できたように思う。
自宅でリラックスした状態で飲むワインも楽しいが、やや緊張して真剣に向き合うこそ見えてくる、ワイン本来のポテンシャルや素顔というものもある。そんな「出会い」もレストランでワインをたしなむ楽しさの一つかもしれない。
華やかなチーズワゴンが運ばれてきた。この日のために用意されたのはやはりトリュフを挟んだ特別なもの。まるで着物の帯のように白く浮かび上がる・・「さすがのこだわりね」と妻。チーズで一息ついた後、今回もまたデセールはダイニングの横にある「ルージュバー(Rouge Bar)」に移動して、真っ赤な個室でゆっくり頂くことにした。
まずは「ラム酒のグラニテ パッションクリームと合わせ、ココナッツのエスプーマを添えて(Le Parfum des lles)」が運ばれてくる。真っ暗な部屋に美しく黄金に輝く卵のような出で立ち・・黒に金箔の器とマッチして幻想的だ。J・バリーとココナッツミルクの風味がエキゾチックさを醸し出している。ラム好きの妻の機嫌が更に良くなる(笑)
そしてメインのデセールは「マンダリン 3種のバリエーション、ヴァシュラン仕立てに(L'Ecrin Meringue)」。いちごの色素で作ったと言うピンク色がとても可愛い丸いメレンゲ。それを割ると中から3種類の柑橘類(デコポン・パッションフルーツなど)がキラキラと流れ出して来る。妻は「ピンクの美味しい宝石箱なのね♪」と感嘆している。
食後酒は「コンドリュー カンテッサンス フランソワ・ヴィラール(Francois Villard Condrieu Quintessence) 2000年」など。
満席の店内は夜遅くまで熱気にあふれている。ジョエル・ロブション氏がアラン・ヴェルゼロリシェフとともに各テーブルに挨拶に回る頃にはその熱気も最高潮に達する。ロブション氏は翌日は六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に、さらに離日する前には名古屋のラターブルにも顔を出すという。
65歳が自ら先頭に立って引っ張る・・その尽きないロブション氏のエネルギーが、笑顔を絶やさず強い責任感で的確なサービスを行い続ける「100名を越えるスタッフ」の、モチベーションをさらに引き出すのだろう。今宵も日常を忘れ、ただただ美酒と美食を堪能した美しく楽しい一夜だった。
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