ピエール・ガニェール来日特別メニュー、多種多彩なるプレートの嵐
「ピエール・ガニェール(PIERRE GAGNAIRE)」が「ANAインターコンチネンタルホテル東京」にオープンして1周年になる。それを記念しピエール・ガニェール氏が来日し「1周年記念スペシャルメニュー(1st Anniversary Menu)」が提供された。週末と言う事もありかなりの人で賑わう赤坂「ANAインターコンチネンタル」のロビー。右手奥エノテカ横には3月から新製品が話題の「ピエール・ガニェール パン・エ・ガトー(PAINS et GATEAUX)」も目立っている。

エレベーターで36階に着くと大音量の音楽が流れる「バー&ラウンジ」、横に打って変わってシックな雰囲気の「ピエール・ガニェール」受付。煌々と光り浮かび上がるワインセラーでデザインされた入り口くぐり抜け、細い通路を抜けると静かで落ち着いた大人の空間が広がる。奥行きある窓に沿った形のダイニングで、全ての席で窓からの景色(美しい夜景)を見渡せるようになっている。
全体的に若くカジュアルな客層。に四季に合わせて4回程来日しているというガニェール氏はフロアー盛んに出てきて、写真撮影やサインに気軽に応じている。前回は窓際のテーブル席だったが、今回通されたのは東京タワーが間近に見えるカップルシートのソファー。慣れてくると座り心地もよく、レストラン内の動きもよく見通せて意外と心地よい席。そういえばフランス・3つ星のパリ「ル・サンク(Four Seasons Hotel George V Le Cinq)」の豪勢なダイニングも、横並びで食せるカップル席が用意してあり、年配の男女が仲むつまじく食事をしていたが、このあたりはフランス人らしい感覚なのかもしれない。

さて今夜は「1周年記念スペシャルメニュー ラ・プルミエール(La Première)」ということで見開きで重厚感のある、ガニェールのサイン入りの特製メニューが手渡される。「あぁすごいね。これ頂けるの?」と尋ねると、「いえ、これは雰囲気ということで・・あとで紙のメニューを別にお持ちします」ということである(笑)。
多皿のガニェールの料理は予測不可能なのでワインを合わせるのは一苦労だ。聞いてみると「白かブルゴーニュの軽い赤でもよろしいかもしれません」と言うこと。今宵のワインは中心に白をおき、シャンパーニュ・赤・食後酒はハーフボトル(Demi Bouteilles)で合わせてみることに決めた。ちなみにワインリストにハーフボトルがまずまず充実しているのは、多皿の料理に合わせやすいようにという配慮(対策)なのかもしれない。

まずシャンパーニュ、既にホテルの部屋で「ポル・ロジェ(Pol Roger)」で喉を潤していたので、若干熟成感があるものを所望し「クリュッグ・グラン・キュヴェ(Krug Grande Cuvee)」のハーフにする。クリュッグらしい上質なイースト香と旨みが乾杯にふさわしい。クリュッグから即スタートする時は熟成感と旨みで酸味は余り意識しないのだが、ポル・ロジェを先に飲んでいたので、MLF(マロラクティック発酵)をしないクリュッグの酸のシャープな力強さをダイレクトに感じた。
これは3種の小さなフィンガーフードとともに頂く。シナモンスチィックの刺さったエストラゴンのマシュマロ、ポレンタ、ルッコラのパンケーキ。このパンケーキにはヨーグルトフルーツ、セロリの千切り、ショウガスティックが添えられる細かさ。味わいというか細やかさに関心しつつ頂く。
アミューズも3種類。「パースニップスのヴルーテと菊芋のジュレ、サラダ菜で包んでオシェトラキャビアを添えて」「天然真鯛とクミンの香る人参のムースリーヌ」「パリ風ブイヨン(マッシュルーム・根セロリ・フヌイユ・フレッシュハーブ・タラバガニ)」。手前から左回りに食べるように勧められる。
サラダ菜で包んでオシェトラキャビアのミネラリーな塩気と食感を感じた後に、余韻はパースニップスの透き通った人参様の風味が強く香る。パースニップスは他のレストランではほとんど見かけないが、ガニェールのメニューではよく出てくる。フレンチらしいアクセントかもしれない。

続いて、天然真鯛の上に人参のムースリーヌがソースのように少量乗せられている。これは最初にふわっと人参の甘い香りが漂い、余韻には真鯛の下に添えられているクミンの異国情緒あふれるニュアンス。
そしてパリ風ブイヨンは岩海苔も入っていてなんだか蟹味噌汁を再構成したような感じ。それでいてアガーの寒天がふたのように上に乗せられ、バターとマッシュルーム、そして根セロリやハーブのニュアンスでフレンチに昇華している。なんだか温かくほのぼのした味わいだった。
なるほど、1品目の「パースニップスの香り」と2品目の「人参のムース」をつないで、さらに2品目の「クミン」と3品目の「ハーブ類」とをさらにつなぐことで3品の連続性を意識させつつ、ブイヨンでお腹に落ち着きを持たせるという意図が伝わってきた。乗らなくても良いジェットコースターに乗せられて園内1周してきたような感がしないでもないが、遊び心の伝わるアミューズで面白かった。

そして早めに白に移行する。ある程度時間をかけて飲める、そして飽きのこないポテンシャルの高いもの・・という視点から「ルロワ ムルソー プルミエ・クリュ グット・ドール(Leroy Meursault ler Cru La Goutte d'or)1995年」をチョイスした。
ねっとり深みを感じる黄金色。熟成からくる強いシェリー香・トリュフ・ナッツ・オイル・コールタール。甘さは控えめなのでアタックに感じる印象はおとなしいが、中盤から余韻にかけて酸味がグイッとミネラル感とかすかな苦みとともに、横に縦にそして斜めにと縦横無尽に味わいを押し広げていく。しかも30分もするとシェリー香の角が一気にとれてまろやかな旨みというか、何ともいえない愉悦的な香りに変化していく。30分単位で刻々と変化し続けるため、追いかけがいのある、ルロワらしい懐の深い味わいだった。
1皿目の前菜は「貝のマリニエール、ポタージュ キュルティヴァトゥール キャベツとアンディーブを添えて」。ホッキ貝・ツブ貝・マテガイ・帆立貝など5種類の貝をバターで和えた一品。青山の時もガニェール氏の「貝のプレート」はとても良かったという印象があるが、今宵も「綺麗でピュア」な印象で、総じて日本人は喜ぶ「海」の味わいだろう。それぞれの貝の奏でる食感や甘さが美味だ。ルロワのグットドールのミネラル感とも共鳴してくれた。

キュルティヴァトゥール、つまり農民風という名のジャガイモ・人参・ポワローなどの野菜ポタージュが添えられるが、スープ系は「パリ風ブイヨン」が既に出ていたから、これはなくてもよかったかもしれない。ロールキャベツの中にはアンディーブとイベリコポークが潜んでいて味わいのアクセント。印象としては貝の美味しさだけが記憶に残るプレートだった。と、ピエール・ガニェールのコースは元々長いが、今宵はフェアーということで満席、料理の出る時間もさらにゆっくりしており、まだまだ先は長い。
続いて「メヌケのヴァプール、クレソンサラダ、レモンコンフィーとケッパーと共に 魅惑的なサラダを添えて」。メヌケ(目抜)はカサゴ科の大型深海魚。珍しい高級魚だ。フレンチで食するのは初めてかもしれない。メニューには「グリエ(griller)」とあるが、ガニェール氏が試食して「ヴァプール(cuire à la vapeur)」に変更したという。

真ん中がせり上がったプレートに、ケッパーなど酸味の効いたバター風味のソースと共に、しっとりと火が入ってプリッとしたメヌケが4~5切れ置かれている。同じく大型高級魚のアラほどは芳醇な脂はないが、しっとりしてなかなか上品な味わいだった。ヴァプールに変更したのは成功だろう。
酸味で最後まで飽きずに食べさせてくれたが、ただ前の前菜のバター風味とイメージがかぶってしまった。もちろん味わいは違うし、それぞれ精妙に構成されているとは思うのだが、口元に残る食後感が似てしまいやや残念だった。ラディッシュ・黒ダイコンなどで作られたまるで「なます(鱠)」のような「魅惑的なサラダ」も微妙だ。
という訳でまったりと長丁場になりそうな今宵。ガニェール自慢の新作パンとともにワインを味わいつつ、妻と会話を楽しみながら次のプレートを待つ。こういう時には確かにカップルシートが良いかもしれない。パンは4種類、配分を変えた天然酵母のカンパーニュ2種類に、ピスタチオ・レーズン・アプリコット・白ごまなどが含まれたフルーツたっぷりの物、そしてチャバタ。クレソンのバターもなめらかでありながらリッチで良かった。

3品目の前菜は、「トリュフの香るオニオンのペタル、リンゴのセミ・コンフィー、クレーム アルブフィラ」。薄く切られしっとりと火が入ったチキンとタマネギの上には黒トリュフが鎮座している。大きめのリンゴのコンフィが酸味と甘みのアクセントで印象に残る。味わいの要素を様々な食材でバリエーション豊かに表現することで、エレガントさと面白さを食べ手に与えてくれる。なかなか立体的で美味なプレートだった。
ここで開ける赤ワインは「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ボンヌ・マール(Comte Georges de Vogue Bonnes Mares) 1988年」のハーフボトル。「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ミュジニー(Comte Georges de Vogue Musigny Grand Cru) 1987年」のハーフボトルと迷う。ミュジニィの方が好きだが、ヴォギュエ伯爵が死亡した87年まではヴォギュエの低迷期とも言われているため躊躇された。とは言え1988年のハーフも状態的には微妙かと、方針を変えてフルボトルのページにも視線を走らせる。
すると「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ シャンボール・ミュジニー(Comte Georges de Vogue Chambolle-Musigny 1er Cru) 1990年」がある。年度的そして状態的にはこちらの方がよさそうだが、村名ワインなのでポテンシャル的には落ちる・・・とさらに悩む。

悩んだ時は「そのレストランのワインを知り尽くしているのはソムリエ」と言う事で相談するのが常なのだが、この日は満席で皆さん忙しくそれも申し訳なく思う。それでまぁ結局は「ボンヌ・マール 88」に決めたという訳だ。
少しこもってくぐもった香りでひねたような香り。30分立つと梅の香りも涼やかに漂い出して持ち直す。凝縮した果実味は余韻深い・・・が妻は横で笑いながら「悩んだ成果は余りなかったわねぇ」と一言ツッコミ(笑)
メインは「鴨のフォワグラのロースト、ピュイ産緑レンズ豆、ベーコンとモリーユ茸、マスタードの効いた赤ビーツのアクセント 薄き切りにした鳩胸肉の黒こしょう風味」。まずはココットで仕上げられた小鳩がプレゼンテーションされる。
出てきたプレートは鴨フォワグラが主役で、その周りにレンズ豆やモリーユが配置されている。上にのせられた鳩胸肉はとても薄くスライスされてちょっとイメージが違った。¥ベーコンの塩気や赤ビーツのソースのマスタードの酸味が味わいのアクセントとしての役割を果たし、強めのバランスを取っているのだろう。しかし食べているうちにベーコンが強く香って食すペースが落ちてしまった。

チーズを料理として提供するのもガニェールの特徴だが、今回はアイスクリームとスープ仕立ての2本柱の構成になっている。「モッツアレラのアイスクリーム、とろみと辛みを効かせたグレープフルーツジュース、タンドリーの香るマンゴーと共に」、トリュフが効いた「モン・ドールフォンデュ、ヴァン・ジョーヌ風味」。この段階でかなり満腹であるため、私的には「料理」として昇華されたチーズがちょうど良かった。
そしてデザートの多さもガニェールの特徴。クリーム系「白」、カシスの「赤」、ショコラの「黒」と3回に分けて計7皿が提供される。金柑・ミカン・苺の中にはウイキョウが隠れていたり、黒豆やタピオカなどを使ったりとバリエーション豊か。盛り付けも鮮やかで立体的、高グラスにはキャラメル・ソースがかかった蜂蜜アイスクリームが入っている。デセールに一際こだわるガニェールらしい不思議な創作物?が沢山登場し、目にも口にも面白かった。

食後酒は「ヴァインバック リースリング グラン・クリュ シュロスベルク ヴァンダンジュ・タルディヴ(Weinbach Riesling Grand Cru Schlossberg Vendange Tardive) 2005年」のハーフをチョイス。「シュロスベルグ」「ヴァンダンジュ・タルティヴ」「ヴァインバック」の保有する3つのグラン・クリュの1つ。ヴァンダンジュ(Vendange)、遅摘みのブドウから作る甘口ワインだ。透き通るような薄い色調に比例するように、味わいも可憐な甘さと繊細な酸味。鼻の奥につぼみかけた花の花弁を入れたようなかすかな香りしか感じない。かえってこの繊細さがデザート達によく合った。
「精緻に考えられた多皿」というガニェールのイメージは相変わらずだ。色んな仕掛けが隠されており勝手に想像するのも楽しかった。ただ「最初に多皿ありき」という印象で、そんなに無理に全部多皿にしなくてもと言う食後感がなきにしもあらずだろうか。去年訪問した際よりは満足感がやや落ちてしまった(フェアー中でびっしりと満席なのでやむを得ないかもしれない)。
しかしバリエーション豊かな表現が存在し、共存し、そして競争し合うのが、フレンチの世界の楽しさの1つ。芸術品のようなこだわりの「ピエール・ガニェール」の料理達を鑑賞するのもたまには楽しい体験であろう。
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