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すきやばし次郎、孤高な江戸前鮨の世界

livarot.gif冬が戻ってきたかのような寒い夜、銀座の鮨「すきやばし次郎」本店を久しぶりに訪問する(六本木店はこちら)。銀座・数寄屋橋交差点近く、地下鉄「銀座駅」入口を階段で地下に降りていく。以前は「すきやばし次郎」のみポツンといかにも場違いな雰囲気で肩身狭そうに佇んでいたが、今では鰻「五代目 野田岩」、焼鳥「バードランド」なども出店。場違いさは変わらないが、また別の意味で不思議なフロアーになっている。

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 立派な木の看板と暖簾・・引き戸を開けると小さな蹲踞には早春らしい花が活けられている。奥にはこじんまりとしたL字型のカウンターが左にある。ミシュランで3つ星を取ったばかりの頃は電話がなかなかかからなかったが、17時30分から18時45分、19時から20時15分という2回転制にして、予約も入りやすくなっているようだ。

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 まずは日本酒の燗を所望すると小鉢が出てきた。1杯目を飲み干す間もなく「始めてよろしいですか?」と有無を言わさず(笑)、20貫の握りがスタートする。寿司屋には珍しく一人ずつ持ち帰れる、ローマ字表記のメニューが置かれているのも「海外の客」などを意識してだろう。

 スタートは「平目」から。口の中で存在感を感じる微妙な歯ごたえがその上質さを表している。「スミイカ」は逆に噛みしめるとネットリと溶けていくようで、平目とのコントラストが楽しい。爽やかなスミイカ特有の甘みがシャリとともにほぐれながら広がっていく。

20110220sukiyabasijiro2 「ブリ」の後に「マグロ」が3貫続く。今日の鮪は京都は舞鶴のもの。「赤身」はやや焦点が緩いがほのかな酸味は美しい。妻は、脂身のバランスの良い「中トロ」を一番気に入ったようだ。
 「大トロ」は口に入れるとあっという間に溶けてなくなる。やはり深みや奥深さは不足するがこの時期にしては満足のトロだろう。

 「コハダ」は厚みのある身から酢がジュワッとしみ出て、フレンチのソースのようにシャリと混じり合う。が、以前ほどの感動は感じなかった。時期的にコハダ自体の脂が乗って力があるため、小鰭特有のあの可憐さが余り感じられなかったからかもしれない。

 艶やかな赤色を帯びた「赤貝」は、そのヌルリと色気ある身をゆっくりと噛みしめると、綺麗な海の香りがじんわりと広がる。
 続く「赤貝のヒモ」がさらに良かった。やや歯ごたえのあるヒモからは、より強い磯の香りがパッと漂い、そして口中をあっという間に満たしていき余韻も長い。

 そしてしっとりした脂の「アジ」から「車海老」へ。海老ミソを挟み2つに割って供せられる。相変わらず「次郎」ならではの大きさと身の旨みを楽しむ。
 大きな「ハマグリ」は、口の中で歯を立てるとこぎみよく切れていくほど繊細な身質。煮ツメとのバランスも良くコクと深みのある握りだ。続く「サバ」はあまり印象に残らなかった。

20110220sukiyabasijiro3 「タコ」は仕込みが面倒なせいもあるのか、最近の寿司屋では出さないところが増えている。「次郎」の蛸はその人肌の温度が絶妙で、清らかな香りがほのかに漂う。噛みしめるほどに甘いエキス分も染み出してきて、車海老以上に良かった。
 タコ嫌いだったジョエル・ロブション(Joel Robuchon)氏も気に入ったという一品。ロブション氏はちょうど「
来日ガラディナー」の前の昼に顔を見せたというから堪能したことだろう。

 ネットリした食感でシャリと一体となる「サヨリ」、そしてクリーミーな「雲丹」、「小柱」の軍艦と続く。雲丹の濃厚な甘さ・小柱のほのかな甘みが、備長炭で炙った海苔の香りとそれぞれハーモニーを奏でる。
 「イクラ」はつやつやとしてとても綺麗で、溶けた後に上品な甘さを感じる。ほぐれて口の中で消えていく、いかにも江戸前という感じの「穴子」。そして最後はデザートのようにふんわり甘い「玉」で締めくくられた。

 20貫食べ終わり、時計を見るとちょうど30分(笑) メニュー表の後ろに印字されている「握られて出来て食いつく鮨の飯」という江戸川柳の通りである。食べ終わるとカウンター横の小さなテーブルに通されメロンが出される。さっぱりしつつふくよかで、品の良い甘みの口直しだ。

 とにかく上質さから来る「ネタの綺麗な存在感」は群を抜いている。ただ値段からしたら当然とも言え、他の寿司屋のそれと比較するのは意味がないかもしれない。
 シャリはハラリとはらける感じではなく、ジワリとネタと渾然一体になる感じ。粘りもかなり感じるためネタによっては「どうかな」と思う瞬間もあるが、空気の入りが良いのか全体的にはいい塩梅で絡み合う。

20110220sukiyabasijiro4 丁寧な仕事で引き出された上質のネタの「食感」と「自然の甘み」、シャリの「柔らかな触感」と「穏やかな酢と塩加減」、煮キリで感じる「ほのかな醤油の風味」、煮ツメの「繊細でしっとりした旨み」、時々ツンと感じるワサビの「刺激」。これらの味覚・感覚を微妙に絡み合わせた、「計算し尽くされた握り」といえるだろう。
 ただここまで計算して「設計」するのであれば、提供するスピードにも緩急が欲しい。例えば前半は早め、鮪でじっくり、後半はさらにゆっくりなど・・。フレンチシェフとの交流もあるようだから、フレンチの提供スピードの緩急などは応用しても良さそうなものである。

 シャリはもう少し強くはらける方が好みでやや緩いのが気になったが、妻は「デザートみたい・・口の中でふんわり広がる♪」、「お箸で大丈夫なのに、口に入れると柔らかく崩れるから食べやすいわ」と満足だったようだ。

 一方「短時間でひたすら20個食べるのは・・(笑) やっぱりデートには向かないわね」と一言付け加えるのを忘れなかった。30分1人3万円。まさに食べ手の「価値観」が問われる、寿司屋を越えた「すきやばし次郎」という名の寿司屋である。
 「すきやばし次郎、小野二郎氏を独占する贅の極!(2011/11)」

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