「シャングリ・ラ ホテル 東京(Shangri-La hotel TOKYO)」のメインダイニングは、28階にあるイタリアンの「ピャチェーレ(Piacere)」。ランチは銀座の予定だったが、急遽変更してこちらで楽しむ事にした。ちなみに、宿泊者の朝食はここで頂けるが私はルームサービス派。ホテルに満足している時にはランチもホテル内で済ませ、部屋に戻ってまた一息つくのが優雅な気分で良いわ(レイトチェックアウト)。

何とも素敵なのは、ロビーや部屋とも違う海のような深い緑系の内装インテリア。イギリス在住の香港人デザイナーのアンドレ・フー(Andre Fu)氏が手がける、モダンでありながらクラシックでもあるゴージャスな空間。吹き抜けの天井は6m、そこには優雅なヴェネチアン・ガラス(vetro di Murano)のシャンデリアが輝く。目に飛び込むのは天井まで届くワインセラー。最高級ビンテージを含め常時2千本の品揃え。いわずもがな窓の景色・斜光も良い。
インテリアは深いグリーン系で統一され、引き締めるようにブラウンが入る感じ。ベージュグレーの大理石上に敷かれた絨毯もダークブルーとグリーンで、水面に滴が落ちて広がってるようなデザイン。輝くクリスタルやシルバーに加え、食器類は鮮やかなグリーンも多く美しい。
ウェイティングスペースの「ソムリエ・スイート」、「メインダイニング」、奥に段差上がってセミプライベートの「ラックス・バルコニー」と3エリアに分かれていて全110席。案内されたのはメインダイニング中央のソファシートで、フカフカのブルーグレーのコーナーソファーが心地好い。
注目すべきは、鏡の円柱前にそびえ立つ艶やかなフラワーデザイン。「シャングリ・ラホテル東京」全館のフラワーデザインをプロデュースしているフローリストと言えば、ニコライ・バーグマン(Nicolai Bergmann)氏。デンマーク出身らしい北欧スタイルと、繊細な和の融合を確立させた、今や有名すぎるフラワーアーティストね。華やかな濃紫が輝くクリスタルと共に鏡に映えて豪華でありながらシック。青い地中海なフロアに美しく浮かぶが如くの洗練さ、白い花は波のよう。
イタリア人シェフのパオロ・ペロシ(Paolo Pelosi)氏は、フィレンツェのホテルやミシュラン2つ星「リストランテ・アルフォルノ」などで修行したという。ランチメニューの中から5品(うちパスタ2品)のコースをチョイスする。アミューズはウズラの卵とトマトが乗った「アーティーチョークのヴェルーテ」。
乾杯はグラス・シャンパーニュの中から、「アンリ・ジロー エスプリ ブリュット(Henri Giraud Esprit Brut)」。透き通るような軽やかな色調に、マスカットのような品ある香りが漂う。アタックから口当たり優しいフレッシュ感にあふれている。春のランチにはぴったりだろう。

前菜は「ヴエネト産 仔うさぎのクロスティーニ 黒トリュフとミニリーフサラダ、12年熟成バルサミコ酢」と「じゃがいものヴェルーテ 墨烏賊のポワレ、北海道産雲丹とイカ墨ピューレ」をそれぞれチョイスした。
仔うさぎのクロスティーニは、熟成したバルサミコ酢の奥深い味わいと黒トリュフの香りがこぎみよいアクセントで、ランチにはぴったりくる前菜だ。「じゃがいものブルーテ」はネットリした食感にイカ墨の風味が混じって、濃厚な口あたりでありながら食べやすく余韻は軽やか。「白」「赤」「黄」「黒」と綺麗にプレート上にデッサンされて、華やかさも演出する。
ここピャチェーレはワインの品揃えも充実している。中でも感心したのはグラスワインの豊富さ。さすがにランチではフルボトルはきついため、グラスワインが複数用意されている点は評価が高い。こういう点もホテルダイニングならではの楽しさだろう。井上シェフソムリエに、今日の料理に合わせて白・赤、それぞれグラスワインをお願いすることにする。

まず白ワインは「ムルソー アラン・コシュ・ビズアール(Alain Coche Bizouard Meursault)」。ビズアールはコシュ・デュリ(Coche-Dury)の親戚筋にあたる。「サッパリ系よりしっかりした味わいの白が好み」と伝えると、グラスワインメニューにはないボトルを開けてくれたものだ。薄い色調にほのかな香り。引き締まった酸でクリアーな味わい。上品なミネラルも感じられ料理も進みそうで思わずニッコリする。

最初のパスタは、ディナーメニューの中からチョイスさせてもらった「ミントとリコッタチーズを包んだパッパルデッレ、仔羊のラグー」。仔羊の風味を生かしたラグーはかなり濃厚。不思議な食感のパッパルデッレ(Pappardelle)に、口元にとろりと残る凝縮したエキス分を感じるソース。それらが重なりあって一層重厚感を深める。今日最もイタリアの風を感じる力のある一品だった(ランチにはかなり重いからディナーメニューに配置されているのだろう)。
2品目のパスタは「トマト、イカとブロンテ産ピスタチオオイルのタリアテッレ」。こちらはとても綺麗に仕上がって優しい口当たり。先ほどの仔羊のラグーとはまた異なる軽やかさが、大きなコントラストを描いてくれ良かった。

メインは「北海道産黒毛和牛のスライス キャンティーとエシャロットソース ラディッキオトレヴィーゾ じゃがいものロースト」。上質の和牛をエシャロットと赤ワインソースでうまくまとめていて普通に美味しい。合わせてくれた赤のグラスは「レ・ヴィーニェ・ディ・ザモ チンクアンタンニ・メルロー(Le Vigne di Zamo Cinquant'anni Merlot) 2007年」。
初めて飲んだが、凝縮感を感じる果実味に、すべらかでありながら存在感のあるタンニンが骨格を形どりなかなか面白い。メルローらしい土っぽさも何となく感じるし、テール部分を煮込んだ赤ワインソースにぴったりだった。「この作り手は白ワインの名手で白はどれも美味しいんですけど、赤に関しては、このメルローだけはイケるんですよ」と井上ソムリエ。

チーズはイタリアを中心に充実した品揃えで、「クリストフル(Christofle)」製の大きなワゴンで運ばれてくる。何と150万円もするもので国内には4台しかないという。チーズは朝食でもたっぷり食べていたが、赤ワインも残っているしせっかくなのでお願いする。お勧めチーズを3種類盛り合わせ。コンフィチュールやドライフルーツがたっぷり付け合せてある。
「クルティン(Curtin)」はベネト州のセミハードで、刻んだ黒トリュフが入った珍しいタイプだ。口の中でパラパラとほぐれると、優しいミルクの風味に黒トリュフの香りが混じる。妻は思わず「これワインに合うわ~」と声を上げ、かなり気に入ったようだ。それから熟成したウォッシュとブルーチーズの「ゴールデンゲル(Golden Gel)」。アルザスの白ワイン、ゲヴェルツトラミネール(Gewürztraminer)に漬けて作られたこのブルーチーズは、ライチの香りが漂うマイルドな口当たりで良かった。

デザートは、パオロ特製のデザートで「パッションフルーツのクレームブリュレ」と、バニラ・チョコ・ミルク三種の「アイスクリームのセレクション」。色鮮やかな鉢植え生ハーブからチョイスした「ハーブティー」とともにゆっくり味わった。美しくセンスある盛りつけ、しかし味わいの中にはきちんと「イタリア風土」のニュアンスを感じ、予想を超えて楽しく美味しいランチになった。
「落ち着いてゴージャスな空間」「シェフソムリエの的確なサービス」「豊富な品揃えのワイン」と3拍子そろっている。デート・夫婦・家族・女性同士など、それぞれの用途で思い思いに優雅な時が過ごせる大人のレストランだろう。