大阪「Hajime(ハジメ )」 頭脳的フレンチをランチで堪能する
大阪・肥後橋「ハジメ レストラン ガストロノミック オオサカ ジャポン(Hajime Restaurant Gastronomique Osaka Japon)」。ミシュラン史上最短という、オープンから1年5ヶ月で3つ星獲得した話題のフレンチレストランだ。
新大阪駅から車で20分ほど。大通りから1本入った通りにあるガラス張りのビル。シンプルな白い扉を開けると白いアレンジメントの花、入ってすぐ左手にソファのウェイティングスペースでその前に受付がある。シックモダンなセンスの良さは既にこの小さな空間でも十分に感じられる。

区切られた奥には意外に広いダイニング。高めの天井にダークグレーの床、白壁にはいかにもRIKIZOらしい赤と黒の絵がかけてある。奥の黒い壁にはアレンジメントの花がクリアに浮かび上がる。洗練されたというか無駄が全くないシンプルさ・・・スマートな世界が広がっている。「画廊のような空気感ね・・気に入ったわ」と妻。
壁沿い背後からの照明、料理を浮かび上がらせる美術館的照明、テーブルの配置も巧い。もともとシステムエンジニアから料理人に転身したというシェフらしく、全てにおいて細やかに計算されているのが解る。一番奥には個室も設けられている。
テーブルに着くと、料理の解説とシェフからのメッセージが書かれたメニューが渡される。ランチではあるが、まずはグラスシャンパーニュで喉を潤しながら、メニューには記されていない3種類の小前菜から楽しむ。
1種類目は「ひらめのカルパッチョ」。ゴマ・コリアンダーを混ぜ込んだ薄生地を丸めて、ヒラメとともにトマトやクルミを包み込んでいる。一口で口に運ぶと、ゴマ・クルミ・シナモンなどのスパイシーな香りがパッと広がる。ブラン・ド・ブランだが、熟成香・ナッティさを感じるシャンパーニュが、アミューズとともに頂くとなかなかの相性を見せてくれた。

2種類目は「ウフコック」、ここ「ハジメ」のスペシャリテの1つ。卵の殻の底には濃厚な半熟の卵黄が鎮座している。その上には生クリームと桃のピューレを合わせたもの。表面にはシェリーヴィネガーと細かく砕いたローストアーモンドがまぶされている。何ともいえない繊細な口当たりでいて、香りと旨みが混じり合い後を引くような美味しさ。
3種類目は「北海道産の帆立」。ジューシーに仕上げた帆立の上にはこんもりとサフランの泡が乗せられ、底にはクスクスのサラダのタブレ。酸味が爽やかでバランス良い一品。出てきたパンは、しっかりとした塩味にもちもち感が癖になる美味しさ。これは「ル・シュクレ・クール(Le Sucre-Coeur)」の物だそう。エシレバターのどこかしら海の香りを感じるクリーミーで強めの塩気とともに味わう。
シャンパーニュに続きグラスの白は、「フレデリック・マニャン ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ シャン・カネ(Frederic Magnien Puligny Montrachet 1er cru Champ Canet) 2008年」をチョイス。まだ若いので濃厚な樽を感じる。
そして「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン(Michel Bras TOYA Japon)」で修業歴のある米田肇シェフのスペシャリテ「ミネラル(mineral)」。「大地のミネラル」と「海のミネラル」を融合させた「地球全体のミネラル」を表現しているという。
66種類の温・冷野菜が所狭しと盛られ、一番上には貝のエキスの泡。このエキスの泡は塩漬け数の子を洗う時に出てくる泡からヒントを得たという。プレートの端にはビーツ、カボチャ、パプリカなどカラフルなソースが添えられ、華やかさを演出する。食べ始めはやや多すぎる野菜達が口の中でバラバラで馴染まず、妻と「ブラスのガルグイユの方がスマートかな??」と意見が一致する。

ところが食べ進めるうちに、野菜の一番下に敷かれたバターと柑橘系の若干濃厚なソースが混じり合いはじめて、野菜の味わいがぐんぐんと口の中で広がって行くのに驚く。
酸味を感じるバターソースで食べる料理という趣き。後半になるとビーツ、カボチャ等のソースとバターソースが混じり合い1つの別のソースになっている・・・この新たに出現する「最後のソース」というべき味わいも計算しているのであろう。とても美味だった。
野菜の美しいプレゼンテーションは今では流行りでどこのシェフも真似るが、「ブラスのガルグイユ」を超えるインパクトを受けたことはなかった。いくら多種類の野菜を綺麗にプレゼンテーションしたところで、フレンチを食べに来ているわけで、ただの野菜サラダなら結構・・・というのが大半の客の本音だろう。
つまり見た目がどんなに綺麗でもそのプレートに何かしらの思想があり「料理」に昇華していないと、食べ手の心を打つ事は決してない。そう言った意味でこの「ミネラル」は掴みは今1つだったが、後半にかけて食べ手を有無を言わさず引き込んでいくような千両役者ぶりには感心した。

続いて「foie gras au naturel(フォワグラ)」。「ゆっくりと0・1度単位で温度を管理しながら丁寧に火を入れた」という。リッチでスムーズな鴨フォワグラの滑らかな舌触り。フォワグラの本来持つ「高貴さ」を丁寧に表現している。
上に乗せられたマンゴー、付け合わせのヴィネグレット、クロカンノワゼット、カボチャのピュレ、そして甘味酸味のバランスが良い濃厚なソースを合わせることで最後まで飽きずに頂ける。マダガスカル産の黒胡椒(わざわざ4分の1、8分の1、16分の1にカットされている)もガリッとアクセントを奏でる。デザートのような食感も楽しく、「もう少し食べたい!」と思わせるところが何ともにくい。
フォアグラという食材はある意味フレンチの定番なので、逆にシェフのポリシーや料理の細やかさ・技術がわかりやすい。相性が悪いと「胸焼けがする、やっぱりフォワグラはポワレが好き」という妻も、これに関してはペロリと食べてしまった。このプレートも細やかでありながら、ある意味素材の迫力も感じる。
そして、これに合せてもらったグラスの白は「M.シャプティエ シャトーヌフ・デュ・パプ ラ・ベルナルディン(M.Chapoutier Chateauneuf-du-Pape la Bernardine) 2006年」。シャプティエらしい硬質なミネラル、ふくよかだが綺麗な酸味が良かった。
さて「agneau(仔羊)」。「やっぱりグラスでなくてボトルでワインが飲みたい」と言い出した妻・・。ワインリストをお願いするとどっしりと重たいそれが手渡される。「これもシェフのこだわりです」ということ。一応昼なのでハーフを中心に目を通して、 「シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン(Chateau Pichon Longueville Baron) 2002年」に決める。
仔羊は2時間かけてゆっくりやさしく火を入れ「丁寧に肉の緊張をほぐし、ぎりぎりを狙うことによって、やわらかく甘みを感じるように仕上げた」という。その上で最後に表面を炭火でしっかり仕上げている。いわゆる低温料理の繊細な火入れの枠にとどまらず、肉料理らしい最後の火入れによる香ばしい仕上がりを狙っているのだろう。いわゆる低温系の肉料理でここまで最後にびしっと火入れされているのは初めてだ。

オゼイユの緑のソースの酸味、ヨーグルトの白のソースの柔らかい酸味、ねずの実の香り、定番ローズマリーの爽やかさ、チャツネのスパイシーさがうまく融合している。「ピション・ラランド」は黒い果実の香りでふくよかな広がりに長い余韻。凝縮した果実味と存在感のあるタンニンがまだ強い味わいだったが、ワインに合わせて米田シェフが一工夫(少し塩を強めにきかせる)してくれたということで美味しくいただけた。
デザートも2種類出るとのことで食後酒をお願いする。妻はポートの「ポート・クローン・コルヘイタ(Porto Krohn Colheita) 1990年」。私は、ミッシェル・クーブレーのフランス産シングルモルト「ベリー・シェリード 27年 ナチュラル・ストレングス ミッシェル・クーヴレー(Michel Couvreur Very Sherried 27 years natural strength)」。27年間シェリー樽で熟成されたシングル・モルトは昼間から頂くにはかなり刺激的だったが、美しい琥珀色が奏でるシェリーの香り、ブランデーのような余韻が楽しかった。

登場したのはめずらしい「ポップコーンのアイス」。ソースはキャラメルで香ばしさと好相性、塩味も上手く効いている。冷たい溶岩石の板(皿)に乗っていて最後まで溶けずに頂ける工夫は嬉しい。
さらに面白いのは「イチゴのタルト 未完成と完成」。温かいイチゴのソースを自分でかけて完成させるというところからきたネーミングだ。繊細なタルトの歯触りとバナナアイスのまろやかさ、イチゴの温かみが複雑に混ざって技ありのデザート。
最後は、美しい葉形のガラスの皿に小菓子が並ぶ。カカオのチョコレートとホワイトチョコレート、飴でコーティングした生のキャラメル、さらにクローブの土台にはカカオの飴が刺してある。ミルクとウイスキーを合わせたリキュールも添えられる。一つ一つ手間暇かけた細かい作品で楽しい。ハーブティー(カモミールとハイビスカス)とともに締めくくった。

いわゆるモダンフレンチ・現代的にプレゼンテーションしたフレンチは、えもすると迫力に欠け、見た目だけでスカッと肩すかしで終わることも少なくない。ここ「ハジメ」は計算され尽くした素材の組み合わせがフレンチらしい複雑な味わい・風味を上手に醸し出している。ある意味独特の世界観があり、知的な料理という感じがした。
カトラリーはクリストフルを中心にフルオーダーでショートサイズの物など、皿とのバランスも考えてある。皿は料理が引き立つリモージュ焼きの白。若いサービス陣も笑顔を絶やさず、そして客の個別の要望の沿おうという気持ちが伝わってきて好印象。
各プレートが出されるテンポ、ワイン提供のタイミングなども的確なため、落ち着いて食事が出来た。ランチなのにあっという間に2時間30分近く経っていて驚く。今度はぜひディナーを味わってみたいと思わせる「魅惑的なランチ」だった。
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