エディション・コウジ シモムラ でヘルシー爽やかなフレンチを
この夜は六本木の「エディション・コウジ シモムラ(EdiTion Koji Shimomura)」に向かう。秋の「アンリオ ガラディナー」以来の訪問だ。下村浩司シェフのスペシャリテ(「牡蠣の冷製 海水と柑橘のジュレ 岩海苔風味」「冷製ブーダン・ノワールのガトー仕立て」「カダイフを纏った的鯛のフリット」など)が素晴らしいのは衆目の一致するところなので、今宵は「お任せ」でなく敢えて「春の息吹」メニューを味わうことにした。

いつものアミューズの後、前菜1品目は「ホワイトアスパラガスの冷製ヴルーテ カナダ・セントローレンス湾のオマール海老添え」。ホワイトアスパラガスの風味を優しく優しく引き出したプレートだ。レモンを使ったソースがテーブル上で注がれて完成する。仕上げにごく少量の生クリームを使用してなめらかな口あたりを演出する。
オマール海老の旨みと甘み、そしてフランスボルドー産のキャヴィアで味付けするような微妙な味の配置加減がとても繊細だ。これはクリーミーで細かい泡が立ち上るシャンパーニュ「セドリック・ブシャール ローズ・ド・ジャンヌ ブラン・ド・ブラン(Cedric Bouchard Roses de Jeanne Blanc de Blancs) 2005年」とも相性が良かった。

2000年が初ヴィンテージで評価がうなぎ登りのセドリック・ブシャールのブラン・ド・ブラン。「オートクチュールなシャンパン」がうたい文句で生産量も少ない。シャルドネっぽい綺麗な色調。ビタミンC、レモンのようなフレッシュな柑橘系の香り。ステンレス発酵らしい軽いボディだが複雑性はある。時間が経つと熟した白ワインのようなニュアンスも広がった。
2品目は「金沢産早掘り筍 富山産ホタルイカ フランス産鴨のフォアグラのソテー」。菜の花が添えられて春を醸し出す料理だ。フォン・ド・ポォー(豚)を軽く煮詰めたソースにマスタードオイルが垂らされる。
その著書の中で「フランスで修業したメゾン・トロワグロでは、レストランのすぐ近くに契約飼育場があって、まだ生温かくフレッシュこの上ないフォアグラを使っていた。その経験から、フォアグラは『内臓である』ことを意識して調理している」と語っている下村シェフ。

この1品も「鴨の内臓とホタルイカの内臓っぽさを合わせて食べて頂くものです」という。プシュッとはじけて口中に広がるホタルイカの甘苦い内臓の旨みに、フォアグラのトロリとした脂が絶妙に混じり合う。添えられたスモークした鴨肉が塩気と風味を補いつつ、菜の花の苦みと筍の香りで春という季節が過不足なく表現されていた。和の風味にも思える日本人好みの味でもあり、これが一番気に入ったが、シェフはなんと和食自体を全く食べないとのことだ。
魚は「鹿児島産桜鯛 釧路産ふきのとう 三浦の春キャベツ」。桜鯛のポワレは皮目をパリッと焼き上げて熱々に仕上げてある。良い香りがプレートから漂ってくる。蕗のとう・トマト・グリーンオリーブ・アンチョビを細かく刻んだディップ状のソースが上に、そしてアサリの出汁の入った春菊のピューレが下に添えられる。
微かに感じるまろやかなほろ苦さが程よいアクセントになるとともに、味わい全体の骨格を形作っている。まさに「春の息吹」というコース名にふさわしい一品だ。

赤ワインは繊細な味わいの料理に合わせて、ブルゴーニュから「ルイ・ラトゥール ロマネ・サンヴィヴァン レ・カトル・ジュルノー(Louis Latour Romanee Saint Vivant Les Quatre Journaux) 2002年」をチョイスする。4日分の作業の畑という名の「レ・カトル・ジュルノー」は、ロマネ・コンティに隣接する畑だ。ルイ・ラトゥールらしい凝縮したエキスのように軽やかな薄い色調。
ところが鼻を近づけると上品で色気あるアロマがふわっと香る。ローズウオーター・ミネラル・白胡椒・ローズマリー。アタックには独特の果実味を感じ、続いて穏やかな酸味がきれの良い余韻を優雅に広げてくれる。少し固くて閉じ気味のままだったが、魅力を秘めた1本だろう。

続いて「フランス産ウズラのクルーテ」。胸肉の上にキノコ・フォアグラをミンチ状にしたものを添えて焼き上げている。マイナス20度で凍らせてからゆっくり加熱したというウズラの卵黄が上に添えられる。
「カナダ産のリードヴォーのソテー」。付け合せのオニオンコンフィにはコーヒー豆の香りをつけている。思わず妻が「アイデアね~」と声をあげる。そのほかにもアスパラソバージュ、ほうれん草など軽井沢の野菜達が春を彩る。特に黒大根の存在感が面白かった。

チーズは周りにレーズンをつけたフレッシュ「シェーブル」、そしてゲヴェルツトラミネールで洗いながら熟成させた「ウオッシュ」を頂く。長野産の苔桃とスカンポを使用した自家製ジャムが添えられる。青海のようなシソのような酸味と甘みがアクセント。
デザートは3種類出てくる。「トンプソン種フレッシュ白ブドウ オーストリア産有機白ブドウのジュレ 濃縮フレッシュヨーグルト」、「完熟クリスティーヌ苺 苺の香るバルサミコ マイクロトマト」、そして「ガナッシュショコラ ココナッツの球状ソルベ 丹波黒豆しぼり」。
埼玉産のクリスティーヌ苺は下村シェフのデザートスペシャリテの1要素。その苺が生のイチゴ・アイスクリーム・シャーベット・ソースと様々に形を変えて、色鮮やかにプレートに広がる美しいデザートだ。イチゴ風味のバルサミコ、そして苺の甘みとマイクロトマトの甘みのコントラストが良かった。
食後酒は「アルマニャック シャトー・ド・フランダット(Armagnac Château du Frandat) 1982年」をグラスで頂く。フランス南西部・アルマニャック地方でつくられたブランデーだ。「綺麗な味が続いたのでコクのあるワインが欲しいわ」という妻のリクエストを受けて、更に「シャトー・ディケム(Château d'Yquem) 1997年」ハーフボトルを追加する。いつもながらクリアーでありつつ深い味わい。蜂蜜の香りにエレガントな甘さが広がる。そして震災後の状況やバンコクでのフェアーの様子などを下村シェフから伺いながら、フレッシュハーブティーで締めくくった。
「ソースやジュの旨みをぐっと絞っています」というだけあって、素材のエッセンス・特徴を搾り取ったようなプレートの数々。豪放磊落にみえてとても細やかな下村シェフらしい綺麗で優しい味わいが続く。びっくりするほど翌朝は胃もたれせずに爽快だった。
ただその反面ワインには合わせにくいというか、ワインを必要としない料理なのかもしれない(といいながら2本半飲んでいるわけだが)。シャンパーニュや白で通しても良いかもしれないし「ヴァン・デギュスタシオン(Vins Dégustations グラスワインのコース)」も面白いかもしれない。

数々のスペシャリテの完成度が余りにも高すぎるため、どうしても比較されるのが辛いところか。その日食べたい「スペシャリテ」と「新作」や「お勧め」を入れ混ぜながら頂くとより満足度は高くなるだろう。いずれにしろ、今宵も繊細でいて緻密な下村シェフの世界観に魅せられた楽しい一夜だった。
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