まだまだ残暑厳しい折、櫛田神社近くの冷泉公園前のイタリアンレストラン「グロッタ・ロッサ(GROTTA ROSSA)」に向かう。今夜もイタリアの風を感じる料理とワインのハーモニーを味わうためだ(初夏はこちら)。橋本夕紀夫氏が設計した店内は、照明をかなり落としたまさに洞窟、赤と黒の中にワインセラーが浮かび上る大人の空間だ。
ここ「グロッタ・ロッサ」はなんと言っても薙野耕平シェフの本場仕込みの料理が楽しみだが、イタリアワインの豊富さも魅力の1つだ。最近は7・8種類のグラスワインを用意するようになったと言うから素晴らしい。今夜はまず大久保和也ソムリエお勧めの「セドリック・ブシャール アンフロレッサンス・ブラン・ド・ノアール ベシャラン(Cedric Bouchard Inflorescence Blanc de Noirs Bechalin)」をボトルで頂き、後は料理に合わせたグラスワインをお願いすることにした。
その「セドリック・ブシャール」は最近評価の高いとのこと、独特のラベルにもこだわりを感じる。アタックにはジューシーな果実味、白い花、薄いミドリの葡萄の皮、柑橘系の香りを感じる。豊かな酸味が洗練された余韻に続いていく。ドサージュをしていないのでキリッと引き締まった飲み口が残暑の乾杯には良く合った。

まずは「飲む野菜のサラダ ヤギのミルクジェラート 大地のミネラルを」が出てくる。トマトなどのガスパチョの上にヤギのミルクのジェラートが浮かんでいる。これは岡山「ルーラルカプリ農場」のフロマージュ・ブラン。とても優しく上品な口当たりで微かにヤギの風味が広がる。とても洗練されていながら食材をダイレクトに感じる。セロリの香りがふんわりと漂いアクセントだ。
「サクラで燻した 能都産岩ガキとアスパラガスのクレメ」。大振りな岩ガキの表面はサクラで燻すことでほんのりと変色している。ナイフで切ると程よく火が入っており、口に含むとかすかな燻香と海の磯の香りがゆっくりと広がる。アスパラガスのクリームとクリームチーズが敷かれていて、ねっとりした口当たり。ノコギリソウ、オゼイユ、ディルの風味もバランスが取れている。
これに合せられたのは「レ・ヴィーニェ・ディ・ザモ コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリ ソーヴィニヨン・ブラン(Le Vigne di Zamò Colli Orientali del Friuli Sauvignon)」。6000本位しか作られていないという。パイナップル、レモンの皮のような複雑な香り。少し感じる樽香は岩ガキの燻香と、ハーブ香はアスパラガスの香りとよく合った。(ちなみにレ・ヴィーニェ・ディ・ザモのメルローはこちら)

続いて「フランス・ペリゴール産 フォアグラのテリーヌ 梨のチップ」。和梨のチップと洋梨のピュレ、そしてリンゴのソースが添えられる。最近流行りの盛り付けで、手でサンドイッチのように頂くという趣向だ。これに合わせたグラスは「カッシーナ・デッリ・ウリヴィのモンテマリーノ(Cascina Degli Ulivi Montemarino)」。昨年までピエモンテのDOCワインが、ヴィーノ・ダ・ターヴォラとして登場したものだ。
アプリコットのリキュールのような香り。抜栓後2週間は面白い変化を見せて伸びていくという。開けて「7日目」と「2日目」の2種類を飲ませてくれたが、確かに2日目はまだシェリー香のニュアンスがあってワインとしては面白いが、7日目の方はシェリー香の飛んだ程良いニュアンスがむしろ料理には合うから何とも面白い。

また「こちらもお好みですが」と「マデイラ・シングルハーベスト(Madeira Barbeito Single Harvest) 1997年」も勧めてくれた。7年以上熟成させたマデラは甘み強くなく酸味を感じる味わいが、今回の余計な甘さを加えていないフォワグラテリーヌと好相性を見せてくれた。
パスタは「スパゲッティー サンマルツァーノ ポモドーロ」。一般のスパゲッティより2ミリほど厚いやや太めの乾麺は、程よいもちもち感があってなかなか美味。サンマルツァーノ独特のトマトの凝縮した甘み、カチョリコッタの塩味・酸味が絶妙なバランスを取りつつ、そのもちもちの食感と渾然一体となっていかにも「イタリアの味」が良かった。

これには「スヴェレート グアルド・デル・レ エリゼオ・ロッソ(Gualdo del Re Eliseo Rosso) 2008年」が合わせられた。「本当に気軽に飲んで頂くワインですが、とてもジューシーな甘さがあって、サンマルツァーノの甘みと合うかと思います」と大久保ソムリエ。確かに単体ではさほど印象に残らないワインだが、サンマルツァーノの甘みをまとったスパゲッティに合わせると、相乗効果で複雑な甘さがアルコール分と一体となりつつ口の中で存在感をみせてくれる。ワインと料理のマリアージュの妙という感じだろう。
もう1品お願いしたパスタは、シェフが修業したプーリア地方名産のオレキエッテ。ソースを色々と工夫しながら複数用意されている。今回は「オレキエッテ 仔羊の自家製サルスイッチャ カチョリコッタ」。オレキエッテの小麦粉のシンプルでいながら滋味深い味わいが、仔羊のソーセージのなまめかしい風味、真っ白なセミハードチーズ、カチョリコッタの柔らかな旨みと混じり合う。そこにジロールの香りがまとわりついて何とも色っぽい。前回よりも濃い目に構成されたオレキエッテはなかなか満足した。

これのグラスワインは「モルガンテのドン・アントニオ(Morgante Don Antonio) 2006年」。シチリアのワインでネロ・ダヴォラ100%の赤ワインだ。黒豆のエキスや炭のような香り、アタックはスパイシーでとても力強い。中盤からのふくらみもあって豊かなボリューム感がある。それでもどこか洗練されていて、柔らかいという不思議な飲み口。
頭の引き出しのどこに整理すべきか悩むような、そんな印象の個性的なワイン。ブラインドだとどこの物か全く分からなかっただろう。焦げた風味に濃い目のボリューム感が、今回のオレキエッテととても良く合った。
さてメインは「フランス・シャラン産 ピュルゴー家の窒息鴨 炭火焼き」。これに合わせて「バローロ(Barolo)2007年」のグラス。とても綺麗でエレガントな香りが広がる。強さもあるのだが細やかな酸もあって心地よい飲み口。
肉の焼き加減は絶妙で窒息鴨の血の旨みを適度に引き出している。添えられたバナナピーマン、そして5種類のソース(新ニンニクのピュレ、タスマニア産のマスタード、スモモのジャム、バルサミコそしてフランス産の濃厚なオリーブオイル)が、ロゼ色の鴨肉とパレットのように色鮮やかに映える。ソースによる味わいの変化とともに楽しくあっと言う間に食べ尽くしてしまった。

デザートは「チョコレートケーキ」と「クレームブリュレ」、更にジェノヴァ「ピエトロ・ロマネンゴ」のコンフィズリーにも合わせて、「ベルタ グラッパ・ディ・バルベラ・ダスティ ロッカニーヴォ(Berta Roccanivo Grappa dei Barbera d'Asti) 2001年」なども色々堪能した。美味しい料理と沢山のワインを満喫して、とにかく妻も最後まで上機嫌だった。まさに「赤の洞窟」のような店内の妖しく薄暗い雰囲気は好き嫌いがあるかもしれないが、半個室的に仕切った空間はデートには良く、慣れてしまうと心地よい雰囲気になるものだ。
いつも工夫され洗練されつつも「イタリアの風土」をどこかに確かに感じる料理。薙野シェフは若く伸び盛りで今後も更に期待ができそうだ。ぶれがなくバランスのとれた安定した料理、バリエーション豊かなワイン、的確なサービスと、ここ「グロッタロッサ」は3拍子そろっている。「アロマフレスカ博多」「リストランテASO天神」と、イタリアンレストランが活性化しつつある福岡。ここ地場の「グロッタロッサ」は遜色のない高いレベルのリストランテと言えるだろう。