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京都「俵屋旅館」暁翠庵、初秋の極みを五感で味わう

20110926tawaraya2livarot.gif長月(9月)の京都は、そよふく風に秋晴れの心地よい日差しがあり、いつもにも増して過ごしやすい。そのため紅葉前の季節なのに人出もかなり多い。京都と言えば我が家では「俵屋旅館」、車を付けるといつものスタッフの皆さんが笑顔で出迎えてくれる。

 今月のしつらいは「月」「虫」「菊」などが主題(先月「葉月」はこちら)。玄関には「月図屏風」、坪庭は秋の七草に囲まれた「重陽の菊の着せ綿」。横には「中国南北朝期女人俑 時代虫籠」、ロビーには「時代虫籠 春日卓 古銅秋虫」「菊図屏風」など。そしていつもの部屋「暁翠庵」には、あの酒井抱一の掛け軸「月の鹿」が設えてあり、長月の風情ある京都をしみじみと感じさせる。

 しんと静まりかえった部屋でしばし2人ゆっくりと過ごす。中庭はこの時期ならではの日差しで殊更緑の濃淡が美しく映える。刻々と変わるその影のうつろいを感じ寛ぐ。すっかり日が暮れると静けさの中に響きだすのが、美しき鈴虫の合唱・・・こういう情緒というのは日本ならではの贅沢だろう。

 さて食事の時間だ。鈴虫の音に耳を澄ましていたところに登場してきたは「朱塗虫籠」に入った先付け。思わず「おぉ~」と妻と声をあげる。そして食前酒は「菊の節句」とも言われる長月らしく花びらを散らせた「菊酒」。こういった演出は気分を盛り上げてくれる。

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 その虫籠には「蟹松風」「粟麩松の実和(笹巻)」「海老あられ揚げ」「ひすい銀杏」「穴子八幡巻」「松葉牛蒡」などが華やかに盛り付けられる。「舞茸 菊菜 菊花 切り胡麻和」は柔らかいお出汁が染みいるよう。「小茶碗 枝豆すり流し」は何ともクリーミーな味わい。煎り胡麻の香ばしさが枝豆の風味とともに余韻に残る。

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 乾杯はお馴染み「ポメリー(Pommery)」。シャンパーニュの穏やかなイースト香と、松の実・煎りごまなど秋の恵みが何とも深いハーモニーを奏でてくれた。

 向付は「鯛へぎ造り 伊勢海老洗い 鰈千利造り」、何とも豪勢だ。鯛はねっとりと口の中でゆっくりととろけていく。鯛はここ俵屋のものが一番好きかもしれない。伊勢海老はほのかな甘みが山葵の風味と一体となる。鰈はこれまた美しい薄作りで目にも口にも楽しい。いつもながら「綺麗」な味わいの魚たちに、妻も「幸せね~」とため息(笑)

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 煮物は「月見豆腐利休仕立て すすき葱 しめじ 木の芽」。黒漆には金の鈴虫がリアルに施されて美しい。蓋を開けると月見豆腐が中央に陣取り「まさにお月見!」の風情。豆腐の中に隠れている「湯葉とグジ」が白みそ・胡麻の風味と混じり合う。器、そして料理がいかにも日本らしい「侘・寂」の季節感を醸し出してくれる。

20110926tawaraya2 焼物は「鱧白焼 薬味ポン酢」。穏やかに火が入った鱧が、特製のポン酢とともに口のなかでしっとりほぐれていく。椎茸・蓮根・小芋・赤芋・アスパラなどの「焼き野菜」は、鴨そぼろ味噌で頂く。この「鴨そぼろ味噌」がまた何とも絶妙な味わいで、焼き野菜の自然の恵みを楽しく食べさせてくれる。残ったそぼろ味噌も最後までおつまみで頂くほど気に入った。

 いつもはシャンパーニュを頂き日本酒に移行するのだが、妻の「今日は赤ワインでしょう!」という一言で赤ワインを頂くことにする。そうそう、俵屋はシャンパーニュは「ポメリー」1種類しかないが、白・赤はともに5~6種類ずつ揃えてある。もちろん俵屋らしく、名前だけでワインを集めるのではなくある意味控えめではあるが、幅広い銘柄で好みに合わせてチョイスできるようになっている。

 白は「ルイ・モローのシャブリ」「トリンバックのリースリング」「ロバート・モンダビィのフュメ・ブラン」「プイィ・フュイッセ」「ルイ・ジャドのシャサーヌ・モンラッシェ」。赤は「サン・タムール」「ロバート・モンダヴィのピノ・ノワール」「カベルネ・ソーヴィニヨン」「グレイ・ラベル・シラーズ」など。

 この夜チョイスした赤は「ピエール・ジェラン ジュヴレ シャンベルタン(Pierre Gelin Gevrey-Chambertin 1er Cru Clos Prieur) 2000年」。初めて飲んだドメーヌだったがブルゴーニュらしいチャーミングで華やかな香り、樽使いの熟成した艶やかさ、11年経過した穏やかさも出ていてなかなか美味しく頂けた。

20110926tawaraya3 御凌ぎは「茄子煮浸し 壬生菜 振り柚子」。ひんやりとした茄子を口にふくむと、あっという間に口の中でとろけていく。滋味深い茄子の味がかすかな柚子の風味とともに広がる。そして温物は「カマス巻 あんかけ 長芋 三度豆 生姜」がどーんと大きな器で登場する。

 「エビ芋には季節がちょっと早いので、長いもをエビ芋に見立ててみたんですよ」と笑顔のいつものお部屋係りさん。なるほど海老芋そっくりに包丁が入れられている・・そんな遊び心も楽しい。柔らかい身から程良い脂がしみ出てくるカマスは、ねっとりしたあんかけとともに口の中で存在感を示してくれた。

 「今日の黒川料理長はいつにも増してキレてるね~♪」と妻と話していると、まだまだと言わんばかりに工夫した料理が登場してくる。
 強肴は「鱧湯引き 千利酢掛け 打胡瓜 松茸」。まだ時期的に京都のものではないが「国産の松茸」らしいぎゅっと凝縮した魅惑的な香りがふんわりと漂ってくる。湯引きされた鱧はさっぱりした酢で頂く。胡瓜のシャッキリした歯触りもアクセントに胃が整っていく感じだ。

 そして最後に赤出汁と登場した御飯は豪華に「鱧御飯」。程よく味付けされた鱧と御飯が混じり合い、既に満腹であるにもかかわらずスイスイと頂けてしまう。いつも最後の御飯は軽く一膳程度なのだが、2人でおひつ全部を平らげてしまった!(笑)

20110926tawaraya4 夏が旬と言われる鱧だが、秋鱧も脂がのってどこかバターのようにクリーミーなニュアンスもある。ワインにも合わせやすかったのは新しい発見だ。焼き物ではその脂を白焼きで落としてポン酢でさっぱりと頂き、御飯ではその脂を生かして頂くというわけだからかなり贅沢だ。

 水物「無花果甲州煮」は甘く香りよく、残った赤ワインに良く合って楽しめた。最後に出てきた存在感のある湯呑は、最近親子で活躍が聞かれる辻村史朗氏のものだったが、今日の器は兎柄などの「古伊万里」を中心に、無骨さが特徴の「伊賀焼」も登場したりして楽しかった。ちなみに俵屋は加藤静允氏の作品も多い。

 食後は「月見の宴」幔幕が貼られた屋上庭園に上がり夜涼みする。いつ伺っても季節を過不足なく表現した、穏やかで繊細な黒川修功料理長の料理。そこに今宵は味わいの緩急ついた出し入れや洗練さも感じた。夜空を見上げながら妻は「いつも最高だけど、今日の料理はまた特に素晴らしかったわ♪」と大満足の様子だった。

 「虫の音」を聞きながら「しつらえ」で空間を感じ、「器」を楽しみつつ楚々と丁寧な料理達の「味・香」を味わう。表面上の豪勢さではなく心の奥に感じる日本人のDNAを刺激され、日本の四季と歴史に感謝したい気持ちになる・・そんな「初秋の京」を頂けた。

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