ジョエル・ロブション来日35周年ガラディナー ロブションのスターシェフが勢揃い
ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)氏が初来日したのは1976年、調理師学校の講師としてだった。当時のロブションは31歳、MOF(フランス最優秀職人章)を受賞した記念すべき年にもあたる。その来日35周年を記念するガラ・ディナーが、恵比寿「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Château Restaurant Joël Robuchon)」で開催された(ワイン込1人10万円)。
まず最初に、料理評論家の山本益博氏とジョエル・ロブション氏との対談が行われる。当時の日本にはフランス食材もなく、例えばエシャロット・セルフィーユ・エストラゴン・シブレット・・さえもなく一苦労だったという。今宵は山本氏の発案で1976年から、「ホテル・ニッコー・ド・パリ」の「レ・セレブリテ」を経て、伝説の「ジャマン」(「ジョエル・ロブション」の前身のレストラン)を開店する前年1981年までの5年に焦点を当て、当時の料理が再現される。
アミューズ・ブッシュ1品目は「さわやかなトマトムースとのコンビネーション」(1976年)。トマトムースの上に赤ピーマンのムースが載せられている。周りにはロブション前菜にある緑の点々が添えられる。ちなみに添えられたトマトの写真はいつものようにアラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)シェフ撮影のもの。なるほど・・今のロブションス・ペシャリテ「キャビア 甲殻類のジュレ カリフラワーのクレーム」の出発点のような雰囲気を漂わせるアミューズ。
2品目のアミューズは「万寿貝にデュクセルとブールデスカルゴをのせロースト」(1981年)。当時はハマグリを使用したという。エスカルゴバターの風味を漂わせた軽い、しかし食欲を刺激してくるアミューズだ。貝殻をモチーフにした美しい器で出てくる。
アミューズに合わせるシャンパーニュは「ブルーノ・パイヤール(Bruno Paillard Brut Premiere Cuvee)」。ロブションがブラインド・テイスティングで気に入り取り上げたシャンパーニュ。フランス国内での消費が多く日本ではあまりお目にかからないがロブションでは定番だ。
前夜はトゥールダルジャン東京「開業27周年記念ディナーパーティー」でモエ・ヘネシー ルイ・ヴィトングループの上品なシャンパーニュ尽くしだったので、熟成による複雑香がいつもにも増して楽しく感じた。
前菜は「活ホタテ貝と根セロリ フレッシュトリュフのサラダ なめらかな根セロリのヴィネグレットを添えて」(1981年)。繊細に火を入れられたホタテ貝は、断面に均一に火が入って美しいアルバ産のトリュフが香り、ヴィネグレットとも絶妙に合う。
そしてここで「ブルーノ・パイヤール N.P.U(Bruno Paillard Nec-Plus-Ultra) 1995年」が登場。これは一度飲んでみたいと思っていたプレステージシャンパーニュ。より熟成した複雑な香りがパッと立ち上がる。トリュフの香りと一体となって綺麗なハーモニーだった。
続いて「ブルターニュ産テュルボ 極上キャビアをのせ インカのめざめのフォンダンをエスコート」(1979年)。ムール貝のソースの香り、インカのめざめの栗のような甘さが、ヴパールでふっくら仕上がったテュルボの高貴さをより引き立てる。
これは「バロン・テナール モンラッシェ(Baron Thenard Montrachet) 2005年」とともに。トロピカル、ナッツの香りが立ち上る。デキャンタージュして3時間半ほと経ったもの。
信国ソムリエによると「もう少し熟成したモンラッシェも考えたのですが、熟成感が出過ぎるとキャビアと合わないと思いました。キャビアの塩気・磯の香りに少しミネラルと固さを感じる若めのヴィンテージをチョイスしました。テナールのモンラッシェは優しい味わいですので」。なるほど・・キャビア、テュルボの味わいとピッタリ。本日のベストマッチだった。
そして「ブレス産ピジョン フォワグラと共にちりめんキャベツで包みヴァプール キュイスのサラダと共に」(1981年)。ピジョンの胸肉とフォワグラが同量と言えるほどに、たっぷりとちりめんキャベツで包まれている。ナイフを入れるとヴァプールによる繊細な火入れでロゼ色だ。さらにロブションのポンムピュレが添えられる。
これにはロブションの初来日ヴィンテージの「ミシェル・ゴヌー ポマール プルミエ・クリュ(michel gaunoux Pommard 1er Cru Grands Epenots) 1976年」が合わせられる。30分前に抜栓されたという。ドライフラワー、熟したフランボワーズ、スパイシーで野性味のあるブーケが漂う。ポマールとは思えない複雑で、しかしなめらかな口あたり。動物の赤身のような香りが、ロゼ色のピジョンの鉄っぽいニュアンスとも巧く合った。
チーズの後のデザートは「紅玉リンゴとレーズンのタルトクランブル バニラのグラス添え」(1981年)。皿のアートも可愛いリンゴだ。ちなみにこの夜のハーブティーはいつもの生でなく、ドライで入れられたものだった。
食後酒は「シャトー・ドワジィ・デーヌ(Chateau Doisy Daene) 2005年」。ふくよかな甘さと小気味良い酸味。濃厚ではないもののソーテルヌらしいチャーミングな味わいを楽しむ。
どのテーブルも盛り上がり、ダイニング全体が時間とともに盛況な空気に満ちてくる。飲食や出版系など様々な業界から参加していたようで、メディアで見かける顔もちらほら。そんな中をロブション氏、ロブション氏と共に世界を回る右腕のエリック・ブシュノワール氏、アラン・ヴェルゼロリ総料理長、渡邉雄一郎エグゼクティブシェフが挨拶に回り、盛り上がりも最高潮を迎える。
私はといえばロブション氏と「すきやばし次郎」の握りの話。ロブション氏は目を輝かせて鮨を握るそぶりを見せ、なぜか寿司談義で盛り上がる(笑) 妻は4人のシェフに囲まれてとにかくワイワイとご満悦の様子であった。
今宵の晩餐は、味わい的にはシンプルながら奥深しくピュアな美味しさ。ロブション氏自らが選び抜いた最上の食材で自ら厨房に立った去年の「一夜限り来日特別ガラディナー」や今年2月の「一夜限り来日ガラディナー(前編)(後編)」とは違って、残念ながら料理数やボリュームはかなり少なく感じた(恐らく「ガストロノミー ジョエル・ロブション」の独自企画ではなく、限界があったのだろう)。
しかし「あぁ、なるほどなぁ・・」と現代のロブション料理の萌芽をあちこちに感じて面白かった。そしてまた、現代フレンチがいかに精緻で複雑であるかも改めて気づかされた。

今ではタイムリーにフランスの食材が流通するだけでなく、続々と日本人シェフがフランスに修行・研修に出かける。一方フランス人シェフも日本でのフェアーに毎月のように招聘されている。消費者は日本に居ながら本場の「雰囲気」を、様々な機会に楽しめるようになった。35年前には誰も考えられなかった幸せな食環境だろう。
日本とフランスを繋いできた先人、そして何か無形なものに感謝しつつ、大いに盛り上がったガラディナーであった。
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