日本国内で「グランメゾン」という響きが真に似合うレストランはさほど多くない。料理の格、ワインの品揃え、サービス陣の確かさ、レストランの規模と調度品、そして刻んだ歴史と経営者の理念・・その要素すべてを備えるレストランの一つとして忘れてならないのは「トゥールダルジャン東京(La Tour d'argent)」だろう。
「トゥールダルジャン東京」が開業したのは1984年。当時のオーナー、クロード・テライユ(Claude Terrail)氏とホテル・ニューオータニ創業者一族のつながりから、世界唯一の支店が「ホテルニューオータニ東京」内に誕生した。

その年のフレンチシーンに目を向けると、日本では「シェ・イノ」や「銀座ペリニヨン」が開業。フランスではジョエル・ロブションの「ジャマン」が史上最速の3ツ星を獲得した年でもある。ちなみに1980年代前半は、1982年に「ひらまつ亭」(現レストランひらまつ)、1983年に「アピシウス」「レ・セゾン」も開業するなど、日本フレンチの第二次創世記という趣きかもしれない。

そんなトゥールダルジャン東京店開業27周年を記念するディナーパーティー「PARIS × PARIS Soiree」が、パリ本店からオーナーのアンドレ・テライユ氏、シェフのローラン・ドゥラブル氏、チーフメートルドテルのミッシェル・クテー氏も来日して盛大に催された(1人6万円)。
入り口ではその来日した3人と支配人クリスチャン・ボラー氏が笑顔で出迎えてくれる。カメラマンが記念写真なども撮って華やかな雰囲気。ダイニングに次々に入って来るゲストの年齢層は総じてかなり高く、27年という刻んだ時の重みを感じさせる。
若くてハンサムなオーナー・アンドレ(Andre Terrail)氏とは「日仏交流150周年のガラパーティー」以来の再会。前回は初来日ということで初々しい感じだったが、今回は威風堂々とした立ち居振る舞い。妻も「王子も貫録出たわね~♪頼もしいわ~」なんて相変わらずのハート目でご満悦だ(笑)。
シェフのローラン・ドゥラルブル(Laurent Delarbre)氏はオペラ・ガルニエ近くの老舗「カフェ・ド・ラペ」を経て昨年パリ本店のシェフに就任したばかり。2004年32歳の若さでMOF(フランス国家最優秀職人章)を受賞したオーナー期待のシェフである。
そのローラン氏が初来日して陣頭指揮を執る今回のパーティー。トゥールダルジャンの古典的な味わいにどんな変化が見て取れるかも楽しみの一つ。
もう一つの楽しみは料理に合わせたシャンパーニュ達。ダイニング正面には氷の彫刻に飾られたそれらが光って鎮座する。今回はモエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ(LVMH)傘下のプレステージシャンパーニュが料理に合わせて総登場。単体ではあまり惹かれないものの(もちろん上質であることは否定しない)、一同に飲む機会は余りないので、味わいの差も今宵は楽しむことにする。
食前酒は「モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ(Moet & Chandon Grand Vintage) 2002年」。このモエ69番目のヴィンテージになる「2002」は、「グラン ヴィンテージ 2003年」と逆転してリリースされたことでも話題になった。
2003年はかなり暑い年でドメーヌの中にはリリースを諦めたところもあった。モエはそれでも自信をもって2003年をリリース。ただし熟成が早いため2002よりも早く発売されたというわけだ。この「グラン ヴィンテージ 2002年」は、シャルドネ51%、ピノ・ノワール26%、ピノ・ムニエ23%。
ちなみに「グラン ヴィンテージ 2003年」はシャルドネ28%、ピノ・ノワール29%、ピノ・ムニエ43%と、セパージュの差は歴然としており、ピノ・ムニエが多いところに苦労のほどが伺えて面白い。
さてその「グラン ヴィンテージ 2002年」、果実の香りがぱっとグラスから立ち昇る・・軽やかなナッツ、イースト香。シャルドネのニュアンスが綺麗にそして爽やかに表現されている。ドサージュが少ないため甘みは穏やか。酸味と優しいバランスを保ちながらなめらかな舌触りからスムーズに余韻へと続く。食前酒にはちょうど良い口当たりだろう。
まずは氷の器に入った黄金に美しく輝く前菜「キャヴィアに重ねたブロッコリーとオリーヴの雫」が登場してきた。たっぷりとキャビアが乗せられた薄いガレットが、器の蓋となっている。そのガレットを割り混ぜ合わせると、オマールのジュレの風味を感じ、下には冷たくなったブロッコリーのムース。やがてキャビアの塩気と風味も一体となって複雑な海の香りがふくよかに漂う。卵黄も風味付けに使われている。
これに合わせられるのは「ドン・ペリニヨン ヴィンテージ(Dom Pérignon Vintage) 2002年」だ。モエに続いて飲むのでそのミネラリーなニュアンスがより感じられる。海の香りを感じる前菜と上手く絡み合った。結果的には本日の中ではベストのマリアージュだった。
続くは「トゥールダルジャン特製 フォアグラ三皇帝風」は一つ一つ丁寧に盛り付けられていく。鵞鳥フォワグラのリッチで濃厚な、そしてすべらかな舌触り。と~てっもクラシックだがピュアで純度の高い味わいには気品さえ感じられる。フォワグラの中に閉じこめられたトリュフの香りもかすかに漂う。
そこにソーテルヌのジュレ、そしてポートワインのジュレが寄り添い味わいのバランスを取る。バターの風味豊かなブリオッシュとともに頂くと何とも幸せな気分・・・まさにフレンチらしい前菜。フォワグラという食材の本来持つ高貴さを味わえる一品だろう。
これには「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム(Veuve Clicquot La Grande Dame) 1998年」が合わせられる。前2者と比較すると熟成感を感じる。ピノ・ノワールを中心にしたグランダムらしい力強い味わいが、濃厚なフォアグラに負けずに互いの味わいを引き立てた。